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紗倉まな初の小説『最低。』は又吉の『火花』より文学的だ! 撮影、親バレ、引退後…AV女優のリアルを描く

 もうひとつ、紗倉のこの小説に出てくるAV女優が特徴的なのは、異物ではなく、“ふつうの女性”と地続きの存在であることだ。

 たとえば、3章の主人公「美穂」は、セックスレスの専業主婦。夫のアダルトビデオを見てAV女優に応募する。

 AV女優になりに行く新幹線の車中で、窓から山を包む霧を眺め、美穂は死んだ父親が好きだったいわさきちひろの絵本を思う。

〈触れた瞬間に消えてしまいそうな繊細なタッチが、自分の心と似ているような気がした。車窓から見渡す景色は、めくられた絵本のなかのように幻想的だった。子どもが生まれたら読ませてあげようと、そういえばリビングの棚の奥に閉まっていたんだっけ。あの、明るくて希望に満ち溢れた輝きをもつ大きな瞳の女の子たちが、息をひそめて、誰にも触れられることのない場所で重なり合っている〉

 AV撮影といわさきちひろの絵本。一見かけ離れたふたつが、するっと共存している。しかも、並の作品だったら、いわさきちひろ的なものは、これから失われる何かを象徴しそうなところだが、美穂のなかのいわさきちひろ的なものは、失われるのではない。これから、開かれることを予感させるのだ。

 旅館の露天風呂で〈背後から、見知らぬ男に「お義母さ、ん」と必死に呼ばれ続けられていた。──どこか、懐かしい匂いがする。「いいのよ」と返すが、なにがいいのかなんて、実際にはよくわかっていない(略)押し寄せる波にただ耐えているうちに、疑問は悦楽に変化して──ふと健太の顔がちらついたけれど──後ろめたさはどこか遠くにぽいっと投げ捨ててしまったようだった〉

 翌日帰宅した美穂は、夫に数年ぶりのセックスを請う。お互いの身体をなぞりあい、夫のリクエストで互いにオナニーを見せ合い、久しぶりのセックスをする。

 しかし美穂は夫とのセックスのある日常に帰還するわけではない。夫とセックスしたあとAVプロダクションの石村からメールが届いているのを確認し、また次の撮影の予定を立てる。

 ごく普通の地味な専業主婦がAV女優となることで、抑制していた自己をささやかに解放してゆく様を繊細に描いた紗倉だが、4章の「あやこ」では、母親が元AV女優の少女を主人公に、「AV女優」を辞めた後のシビアな問題につっこんでいる。
 

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