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『プロレスという生き方』著者インタビュー

「棚橋弘至にありがとうを言いたい」プロレスキャスター20年目の結論

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■棚橋弘至というプロレス界の「長男」

――その果てに三田さんが描いた棚橋選手の姿からは、プロレス界を背負ってきた責任感だけでなく、自分の思うままに振る舞えなかった苦渋のようなものすら感じさせます。

三田 この本のために棚橋選手をインタビューしたとき、「自分はプロレスを立て直すために、自分がやりたいことではなくて、時代が求めていることをやってきたんです」と言われたんですね。当時はそれほど印象に残っていなかったんですけど、あらためてその発言を読み直したら、「あ! これなんだ!」と気が付いて。

 DDTのこともそうですし、同期である柴田勝頼選手が新日本に帰ってきたときも、棚橋選手はずっと反発し続けていました。その理由を考えていったら、やっぱり、「オレは新日本プロレスを復活させるために、いろんなものを捨ててきた」ってことではないかと思ったんです。

――「実家の商売を継ぐために、好きなことができなかった長男」みたいな哀愁がありますよね。

三田 まさに棚橋選手は東スポの取材で自分を「長男坊」だと言っていますよね。「『実家』を守るのは僕」だと。だから柴田選手も対立の果てに、最後は「新日本を守ってくれてありがとう」と棚橋選手に言ったように、私が本の中で伝えなきゃいけないと思ったのは、棚橋選手のありがたみです。

 本人は「自分は疲れてもいないし、ずっと元気ですよ」って言うから、あんまり哀愁を背負わせてもいけないんですけど、マスコミもファンもほかの選手も、みんな棚橋選手に「ありがとう」って言いたいんですよ。

■「初めて棚橋選手のことが理解できました」

――棚橋選手は今でこそ怪我によって初めての休養に入っているわけですけど、それまでどれだけ体調が悪くても表には出さずに、ずっと「長男の責任感」で前に立ち続けてきた。その偉大さが三田さんの描写でよくわかりました。

三田 この本を読んだDDTファンの方からも、「初めて棚橋選手のことが理解できました」と言ってもらえて、そこは本当に、「ああ、本を出して良かった」と思いましたね。

――だから中邑真輔や飯伏幸太といったキラキラしたスター選手から本が始まるんですけど、読後感としては、「棚橋弘至はやっぱりすごいな」っていう。

三田 それはうれしいですね。うん、そう思ってもらえることが、一番いいと思います。

――この棚橋選手の書き方をとってみても、『プロレスという生き方』は、「プロレス・スーパースター列伝」ではないですよね。「プロレス道とは何か?」という究極の謎を追求している本ですよ。

三田 しかも、「プロレス道」へのこだわりをもっとも感じさせるのが棚橋選手なんですよね。でも本人はそれを言わないじゃないですか。だから、あのイマドキ風の見た目にダマされちゃいけないなって、つくづく思いました(笑)。

――では、三田さんにとって、「棚橋選手が報われた」と感じられる日が来るとしたら、どんなときでしょう?

三田 ご本人の願望はわからないですけど、このプロレスブームが来たことで、誰よりも喜んでいるのは棚橋選手でしょう。そして、棚橋選手が今のプロレス人気を支えてきたことは、プロレスが好きなすべての人たちがわかっている。「あなたのおかげです、ありがとう」と棚橋選手が言われる時代が来て、本当に良かったと思います。
(構成/小山田裕哉)

●三田佐代子(みた・さよこ)
神奈川県生まれ。慶應義塾大学卒業後、テレビ静岡にアナウンサーとして入社。報道・スポーツ・バラエティーなど多方面で活躍した後、同局を退社し古舘プロジェクトに所属。以降はプロレス格闘技専門チャンネル「FIGHTING TV サムライ」のキャスターとして、現在も年間120試合以上を取材する。『プロレスという生き方』(中公新書ラクレ)は初の著書。

最終更新:2016/07/02 18:00
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