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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.407

宮崎駿監督が夢想した“理想郷”は愛知に実在した!? 生きることを楽しむ夫婦の記録『人生フルーツ』

life-is-fruity03.jpg様々なニュータウンのグランドデザインを修一さんは手掛けてきた。『耳をすませば』(95)などの団地映画愛好家は見逃せない内容だ。

 2年がかりで本作を完成させたのは東海テレビ報道部の伏原健之ディレクター。劇場公開作品は女優・樹木希林が人生初のお伊勢参りに向かうドキュメンタリー『神宮希林 わたしの神様』(14)に続く2作目となる。

伏原「雑木林に囲まれた一軒家で暮らしている津端さんご夫婦はまるでファンタジー世界の住人のようでした。スタジオジブリの作品に出てきそうだなと思いましたね(笑)。津端さんのご自宅で過ごす時間は心地よく、英子さんが手際よく作るお菓子や料理はとても美味しかった。そんな穏やかな日常をカメラで追って、果たしてドキュメンタリーになるのかと不安にも駆られましたが、編集して繋いでみると、とても豊かなものが感じられる作品になったように思います。津端さんご夫婦を取材している僕自身は毎日仕事に追われ、独身なのでマンションに戻ってコンビニ弁当を食べるだけの生活です(苦笑)。津端さんご夫婦とは真逆ですが、それゆえに憧れを感じます。誰もが真似できる暮らしではありませんが、こんな夫婦がこの世界には実在するんだということを知っているだけでも、とても幸せな気持ちになれると思うんです」

 本作の後半、ほとんどの取材は「もう、いい年齢なので自分の時間を大切にしたい」と断ってきた修一さんだが、佐賀県伊万里市の精神科病院が新しい施設を建てることになり、「患者たちが人間らしく暮らすためのアドバイスをほしい」という要請に顔を輝かせる。「私も90歳。人生最後のよい仕事にめぐりあえました」とノーギャラでこの仕事を引き受け、打ち合わせのわずか2日後には新しい施設の図面をメッセージ付きで書き上げる。無事完成した新しい施設に修一さんが足を踏み入れることは叶わなかったが、代わりに英子さんが最期に夫が残した作品をにっこり笑顔で見届けることになる。

伏原「スタジオジブリみたいなファンタジーをドキュメンタリーとしてできないかと考えた作品です。ラストシーンは『風の谷のナウシカ』をちょっとだけ意識してみました。宮崎監督は『風立ちぬ』を完成させた後の引退会見で『この世界は生きるに値する』という言葉を残しましたが、そのことがこのドキュメンタリーでも伝わればいいなと思っています。今、英子さんはひとりで暮らしていますが、本作でナレーションを務めてくれた樹木希林さんと先日名古屋の居酒屋でお酒を呑み交わし、とても楽しそうにされていたのが印象的でしたね」

 人生フルーツ。一生を通して、人は何を残すことができるのだろうか。本作はそんな問いをゆったりのんびりと投げ掛けてくる。
(文=長野辰次)

life-is-fruity04.jpg

『人生フルーツ』
ナレーション/樹木希林 プロデューサー/阿武野勝彦 音楽/村井秀清 音楽プロデューサー/岡田こずえ 撮影/村田敦崇 音声/伊藤紀明 編集/奥田繁 監督/伏原健之 製作・配給/東海テレビ 2017年1月2日(月)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開
※ 1月2日は伏原監督、阿武野プロデューサーによる舞台挨拶あり
(c)東海テレビ
http://life-is-fruity.com

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