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『死体格差 解剖台の上の「声なき声」より』著者インタビュー

3,000体近くの解剖経験を持つ法医学者・西尾元が明かす、知られざる「法医解剖」の世界

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■法医学は「性に合っていた」

──先生はなぜ、医学の中でもこの道に進んだのでしょうか?

西尾 僕は学生のころから研究に興味があって、大学卒業後はすぐに基礎医学(生理学)の大学院へ進みました。大学院卒業後も、アメリカに留学して研究を続けていました。ところが、いざ帰国してみると、大学の中にポストがない。そんな時に、「法医学なら空いてるよ」と声をかけていただき、この道に進むことにしたんです。つまり、最初から法医学に興味があったわけでもないんですよ。

──それでも、そのまま20年以上も続けてこられた。

西尾 そうですね、性に合ったんだと思うんです。死者への敬意を払った上での話ですが、解剖台の上に乗せられた死因がわからない遺体と向き合うと、なぜこの人は亡くなったのか、そしてそれを調べることに、一人の研究者として知的な興味が湧きます。

 一般的に、医学部ではみんな、“病死”のことを勉強するんです。一生に一度も診ないかもしれないような病気も含めてです。でも、凍死であるとか交通事故で亡くなった方とか……言ってみれば、“ありふれた死”なんですが、外因死の遺体については学生時代に勉強する機会はあまりないんですよ。法医学では、そうした学部ではあまり勉強していない死と向き合うことが多い。僕にはそれが、とても新鮮な経験だったんです。

──一方で、本書では「同じ医の道にありながら、法医解剖医は直接、人の命を救うことはできない」ともおっしゃっています。先生の中で、どこかもどかしさもあるのでしょうか?

西尾 確かに自分は、生きている人を直接的に助けることはできません。そういうもどかしさがないとは言えないですが、とはいえスーパーマンでもないので、全部できないのは当然だと思っています。自分の「分」というか、能力としてやれることをしっかりやるしかない。今与えられた位置で、できるだけのことをするしかないと考えています。

 本の中には、子どものアトピー性皮膚炎に苦悩を募らせた末に無理心中してしまったご家族の話が出てきますが、僕らはアトピーの根本を治すことはできません。でも、運ばれてきたのには理由があるわけです。亡くなった理由を調べる必要性があり、そこをひもとくことで、臨床の現場に訴えられることもあるのではないかと思います。

 今の日本で、私たちはどういった状況で死んでいっているのか。死因をしっかりと決めておくということが、翻って、これから生きていく人の生活をよくするために有用な情報を提供するのではないでしょうか。

■法医学者が考える、自らの「死」とは

――本書に、死んだ夫に気づかず、そのまま遺体と生活していた認知症の女性の話が出てきます。老老介護の過酷な現実がある一方で、終活について、先生のご意見をお聞かせください。

西尾 正直に言えば、自分自身の終活については、あまり考えたことはありません。年齢的に考えれば、家族の中では最初に、つまり妻と子どもより先に死ぬべき人間という認識は家族の中では一致していますので、遺される人が困らないようにすることだけ、考えています。

――これまで多くの死因を決めてきた西尾先生にとって、人間の「死」とはなんでしょうか?

西尾 大学という教育研究機関に勤める者としては、「絶対に」「100%」などという言葉をみると、「本当かな?」と思うクセがついてしまっていますが、「人間は必ず死ぬ」──これだけは事実のようです。人間はみんな死ぬわけですから、死ななければならない何がしかの理由があるはずだと、個人的には感じています。生まれなければ死なず、生まれれば死ぬ。「生」と「死」は意識の中では分けられても、もともとかなり近くにある存在なのではないでしょうか。「生きがい」「死にがい」あまり違いはないと思うんです。「死」は病気によってもたらされることもありますが、決して異常なもの、病的なものではありません。人間の持つ、生理的現象のひとつなのです。

──では、本書の最終章のタイトルに絡めてお聞きします。「幸せな死」とは、どんなものだと考えていますか?

西尾 死を意識しない、まして恐怖心を持つことのない死が迎えられればよいと思っています。
(取材・文=編集部)

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●西尾 元(にしお・はじめ)
1962年、大阪府生まれ。兵庫医科大学法医学講座主任教授、法医解剖医。香川医科大学医学部卒業後、同大学院、大阪医科大学法医学教室を経て、2009年より現職。兵庫県内の阪神地区における6市1町の法医解剖を担当している。

『死体格差 解剖台の上の「声なき声」より』
発行元/双葉社、定価/1400円(+税)
兵庫県の阪神地区で、年間300体もの「異状死体」を解剖してきた法医解剖医が見た、日本の“生と死”の現実。リストラ後、家賃滞納のアパートで凍死した50代の男性。スーパーのトイレで見つかった出産直後の嬰児。老老介護の末、妻の入浴介助中に風呂で溺死した80代の男性————。そこには、日本社会の格差————貧困、孤独、老い————があった。決して報道されない「死の現場」から、「生きること」を説く一冊だ

死体格差 解剖台の上の「声なき声」より

一読すべし

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最終更新:2017/05/19 20:00
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