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『水曜日のダウンタウン』でもおなじみ

14年間タイの刑務所で服役した男の獄中記『求刑死刑 タイ・重罪犯専用刑務所から生還した男』

『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ系)、『クレイジージャーニー』(TBS系)、『陸海空 こんな時間に地球征服するなんて』(テレビ朝日系)など、いまや海外を巡るバラエティ番組は百花繚乱。日本では見ることのできない驚きの文化や景色が、視聴者の目をくぎづけにしている。だが、そんな番組では取り上げられない風景を描くのが、『求刑死刑 タイ・重罪犯専用刑務所から生還した男』(彩図社)だ。著者の竹澤恒男氏は、日本に覚せい剤を密輸しようとしてタイの空港で逮捕され、14年にわたって現地の刑務所に服役していた人物。彼の体験談から浮かび上がってくるのは、日本とはまったく異なるタイの刑務所事情だった。

 2002年、竹澤はタイのドンムアン空港の出国ゲートで、覚せい剤「ヤーバー」1,250錠を所持していたところを逮捕された。そのまま麻薬取締局で取り調べを受けるも、通訳の日本語能力がお粗末すぎ、ろくな会話にならない……。さらに驚くのが、日本では考えられないずさんな裁判。国選弁護人と打ち合わせをして、いざ裁判が開始されると思いきや、なんと弁護士にドタキャンされてしまった! 困り果てた竹澤を見かねて、偶然傍聴席に居合わせた女性弁護士が片言の日本語を通じて弁護をするも、薬物事件に関する知識はゼロ。その結果、検察側は竹澤に対して死刑を求刑。1審の判決は通常よりもはるかに重い終身刑、2審、3審の判決は懲役30年を言い渡された。こうして、タイの地で犯罪者となった竹澤は、殺人、強盗、強姦、薬物犯などが収容される重罪犯専用刑務所「バンクワン刑務所」に移送された。

 刑務所といえば、刑務官の厳しい監視のもとに、囚人たちが規則正しい生活を送る――というイメージを持つ人がほとんどだろう。しかし、バンクワン刑務所では、そんな日本人の常識はことごとく覆されてしまう。

 定員の倍近い6,200人が収容されるバンクワン刑務所では、規律が緩みきっていた。現金の所持が黙認され、囚人が売店を経営して、日用品、食商品、そしてタバコも販売されている。酒の販売はなかったが、囚人たちはブドウやパンを使って密造酒づくりに精を出していた。また、携帯電話やドラッグなども密売人の手によって売買されており、サッカー、タイボクシング、サイコロなど、あらゆる種類の賭博が行われていた。

 そんなバンクワン刑務所では、トラブルは尽きない。金の貸し借りをめぐって囚人同士による乱闘や刃傷沙汰が発生することも日常茶飯事。ためらいなく賄賂を受け取る刑務官は、囚人を棒でリンチし、撲殺することもある。もちろん、死因は「病死」として処理される……。

 刑務所生活が驚きの連続なら、そこに収監された囚人たちも常軌を逸していた。麻薬犯罪で捕まったレディーボーイや、国王への不敬罪を犯した者、さらには何人もの子どもたちを強姦した仏教の僧侶といった、いかにもタイらしい犯罪者だけでなく、ロシアの武器商人、イラン、ナイジェリアなどの麻薬密売人。その中に、竹澤ら何人かの日本人も含まれていた。

 暴力が渦巻くバンクワン刑務所で、竹澤はタバコのバラ売りや差し入れ品の転売といった商売を行いながら長い年月を過ごした。自炊の許された刑務所内で日本食を振る舞ったり、ラジオや本などの息抜きはあったものの、金や所持品の盗難、借金のトラブル、そしてジャンキーからあわや殺されかけるといった危険な日々について、竹澤は「史上最悪の場所」「悪夢といっていいような時間を過ごした」とつづっている。ようやくこの「悪夢」から逃れたのは、逮捕から14年後。国王による特赦の恩恵にあずかった竹澤は、日本へ強制送還された。

 東南アジアでは、ドラッグが身近に手に入るが、営利目的の密輸は、ほぼすべての国で死刑が求刑される。竹澤は、当時を振り返り「私のようになりたくなければ、絶対に手を出してはいけない」と記す。バンクワン刑務所の恐ろしさを知れば、どんな人間でも絶対に麻薬密輸に手を染めることはないだろう。
(文=萩原雄太[かもめマシーン])

最終更新:2017/09/12 18:00
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