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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.448

下着も生ぬるい日常も捨てて、映画へ出よう! 寺山修司原作のボクシング映画『あゝ、荒野』

 一方、理髪店に勤める建二は、自衛官だった父親(モロ師岡)に虐待されながら育ち、30歳を過ぎた今も他人とうまくコミュニケーションすることができない。人に話し掛けようとすると赤面し、吃ってしまう。肉体を鍛え、自分に自信を持てば、会話もできるようになるに違いないと、新宿の片隅にあるボクシングジムを訪ねる。ジムには宿なし、金なし、職なしの新次も来ていた。居場所のない新次と建二は、バラック小屋同然のジムに共に住み込み、トレーニングに打ち込み始める。家族のいない2人にとっては、ジムを経営する元プロボクサーの片目(ユースケ・サンタマリア)と鬼トレーナーの馬場(でんでん)とが新しい家族だった。

 昭和の臭いがプンプンする原作小説を、今の時代に映画化することには本作を観るまでは懸念があった。だがその心配は、『息もできない』で他人を殴ることでしか自分の感情を表現できない暴力人間を熱演したヤン・イクチュンを韓国から招いたことで見事にクリアされた。『息もできない』の主人公サンフンと違って、本作の建二はおどおどした気弱な男だが、平成の日本人が失ってしまった、生まれついての業だとか、汗くささだとか、白いブリーフパンツに付いたオナニー後のシミだとか、そんな洗練されずにいるものを抱え込んでいる。実際の素顔のイクチュンはインテリな好青年だが、カメラの前に立つと独特の匂いが立ち込める。これが彼の俳優としてのオーラなのだろう。ヤン・イクチュンという特濃コクだし俳優の存在によって、本作はイケメン主演のヤンチャな青春映画ではない、平成という時代にいまだに馴染めずにいる人々がもつれ、支え合うNEW寺山ワールドとして成立している。また、他人のSEXを覗き見するのが趣味という、ジムの変態オーナーを演じる元「男闘呼組」高橋和也が放つ昭和感もいい。青姦中のカップルを彼が覗き見しているシーンを見て、寺山がかつて覗きの現行犯で逮捕された事件を思い出した。

 本作を撮ったのは、門脇麦と菅田将暉が同棲中のカップルを演じた『二重生活』(16)で劇映画デビューを飾った岸善幸監督。是枝裕和監督が長らく所属していた製作会社「テレビマンユニオン」に籍を置き、ドキュメンタリー番組でキャリアを重ねてきた。『二重生活』もそうだったが、本作でもドキュメンタリー同様にカメラテストなしの本番一発撮りに挑んでいる。リハーサルもないので、出演者たちは自分が演じるキャラクターに完全になりきってカメラの前に立たなくてはならず、監督から「カット!」の声が掛かるまで、そのシーンを延々演じ続けなくてはならない。CM撮りやテレビ出演も多い菅田は、日々溜め込んでいるストレスを「新宿新次」としての狂乱ファイトへと昇華させ、日本語はカタコトしか話せないイクチュンは、言葉の代わりに「バリカン建二」としてハードパンチを繰り出していく。新人ボクサー・新宿新次とバリカン建二の疑似ドキュメンタリーとして物語は進んでいく。

下着も生ぬるい日常も捨てて、映画へ出よう! 寺山修司原作のボクシング映画『あゝ、荒野』の画像3大学生の恵子(今野杏南)は学生サークル「自殺抑止研究会」に所属し、自殺願望を持つ人たちを救おうとするが……。


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