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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.471

エロ雑誌が青春を謳歌した時代の寓話。カリスマ編集長の自伝『素敵なダイナマイトスキャンダル』

次々とエロ雑誌を創刊した名物編集者・末井昭のイケイケ時代を描いた『素敵なダイナマイトスキャンダル』。警察ともすっかり顔なじみに。

 池袋のピンサロの看板を描いているうちにエロ本出版社に出入りするようになり、やがて「NEW SELF」「ウイークエンド・スーパー」「写真時代」といった伝説のエロ雑誌を創刊することになる編集者・末井昭氏。彼がまだ幼い頃に体験した母親との別れは壮絶なものだった。夫と2人の子どもを残して、母親は年下の愛人とダイナマイトを抱いて爆発心中した。木っ端みじんに散ってしまった母の思い出。故郷・岡山を後にした末井氏は、アラーキーこと写真家の荒木経惟と組んで、エロ雑誌を次々とヒットさせる。そんな末井氏の青春時代を、柄本佑主演で映画化したのが冨永昌敬監督の『素敵なダイナマイトスキャンダル』だ。

 夜、幼い頃の末井がふと目を覚ますと、母・富子(尾野真千子)が黙って枕元に立っていた。末井が母の姿を見たのは、それが最期だった。山奥でドーンッという爆発音が響き、翌朝になって富子、富子と不倫関係にあった隣家の息子(若葉竜也)のバラバラ死体が発見された。末井が前の晩に逢った母は幽霊だったのか、それとも息子の寝顔を見納めする最期の姿だったのか。いずれにしろ、ここまで母親に派手に死なれると、狭い山村では暮らしにくい。工業高校を卒業した末井(柄本佑)は職を求め、大阪、そして東京へと向かう。工場での仕事は性に合わなかったが、デザインの勉強を積んだ末井は、キャバレーのポスターを作るデザイン事務所勤務を経て、ピンサロの手描き看板に情熱を注ぐようになる。

 時代は1970年代。学歴の有無は問われなかった。むしろ学生運動の名残で、権威的なものは否定される時代だった。ピンサロのエロ看板づくりに面白さを見出した末井は、仲間に誘われてエロ本のイラストも描くようになる。家計が厳しいときは、下宿先で知り合った妻・牧子(前田敦子)も働いて支えてくれた。生活は不安定で、夫婦が食べていくだけのビンボー暮らしだった。でも、エロとアングラと出版業界とがまだ未分化だったカオティックな世界で働くことが、末井は無性に楽しかった。

女性とは縁のなかった末井(柄本佑)だが、下宿先が同じだった牧子(前田敦子)とは、一緒のコタツに入っているうちに仲良くなった。

 イラストレーターとしての仕事だけでなく、いつの間にかエロ本の編集も手掛けるようになった末井は、一流雑誌の編集者のように常識に縛られることがない。新しい読者サービス「電話DEデイト」と称して、編集部でテレフォンセックスを始める。読者からの電話を取った女性スタッフは「私、もうこんなに濡れちゃったぁ」と人差し指と親指にセロテープを付けて、ピチャピチャと音を立てる。エロ雑誌を広げれば、男たちの願望を叶えてくれるヤリマン女たちが股を開いて待っている。そんな幻想が生きていた時代だった。『アトムの足音が聞こえる』(11)や『マンガからはみだした男 赤塚不二夫』(16)など、60~70年代カルチャーを題材にしたドキュメンタリー映画も撮っている冨永監督らしく、ここらへんの細かいディテールの再現ぶりが実にいい感じだ。

 グラビアを飾るヌードモデルを調達するのも、編集者である末井の仕事だった。うまくモデルが見つからない場合は、斡旋業者の真鍋のオッちゃん(島本慶)に頼めば、怪しいポラロイド写真を広げて見せてくれる。ポラロイド写真の中に気に入った女性がいれば、すぐに呼び出してくれるわけだが、どれもピンボケで心霊写真のよう。それでも締め切りが迫っているので、速攻で撮影に取り掛からなくてはいけない。エロ雑誌黎明期の女性モデルは、恐ろしく玉石混淆だった。

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