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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.471

エロ雑誌が青春を謳歌した時代の寓話。カリスマ編集長の自伝『素敵なダイナマイトスキャンダル』

 おかしな人間が多いエロ雑誌業界の中でも、ひときわ大きな出会いとなったのが写真家のアラーキーだった。81年に創刊された人気雑誌「写真時代」は、アラーキーのために用意された自由な表現の場だった。当初は「アラーキズム」という雑誌タイトルが考えられていたらしい。そんなアラーキーをモデルにした写真家・荒木さんを演じているのは、ジャズ奏者の菊地成孔。「芸術、芸術、はい脱いで」と素人の女の子をその気にさせて、瞬く間にヌードにしてしまう。冨永監督に頼み込まれて俳優業に初挑戦した菊地だが、プロの俳優とはひと味違う表現者としての異能ぶりを醸し出している。

ダイナマイト心中した母・富子を演じたのは尾野真千子。エンディングには、原作者・末井昭と尾野とのデュエット曲「山の音」が流れる。

 警視庁の諸橋係長(松重豊)から猥褻文書販売の疑いで度々呼び出しを喰らい、その度にペコペコと頭を下げる末井だったが、エロ雑誌業界のヒットメーカーとして活躍するようになる。妻・牧子の待つ自宅には戻ることが少なくなり、代わりに新人編集者の笛子(三浦透子)とホテルで過ごす日が多くなる。過激さが売りだった末井が生み出したエロ雑誌は、警察によって発禁処分に追い込まれ、また新しい雑誌名になって生まれ変わった。一方、末井の愛人となった笛子は次第に情緒不安定となり、やがて自殺騒ぎを起こすことになる。母・富子の衝撃死から始まった本作は、エロスとタナトスが交互に点滅を繰り返すネオンライトのような物語として紡がれていく。

 発行部数30万部を記録するなど、一世を風靡した「写真時代」が廃刊となり、末井が新雑誌「パチンコ必勝ガイド」を創刊し、みずから女装姿で宣伝に努めるところで映画はエンディングを迎える。30歳で亡くなった母・富子の年齢は、もうずいぶんと過ぎていた。当然だが、映画が終わっても末井氏の人生はその後も続く。ギャンブル癖に加え、バブル期には3億円という莫大な個人借金を抱えるはめに陥る。文芸評論家と結婚していた写真家・神蔵美子さんとはダブル不倫関係となり、福岡の中洲にあったクラブ「シオンの娘」を経営する千石イエスこと千石剛賢のもとに通うようになる。煩悩の数だけ、新しい雑誌や本が次々と誕生した。末井氏の半生は、そのまま雑誌カルチャーの青春時代とぴたりと重なり合う。
(文=長野辰次)

『素敵なダイナマイトスキャンダル』
原作/末井昭 監督・脚本/冨永昌敬
音楽/菊地成孔、小田朋美 主題歌/尾野真千子と末井昭「山の音」
出演/柄本佑、前田敦子、三浦透子、峯田和伸、松重豊、村上淳、尾野真千子、中島歩、落合モトキ、木嶋のりこ、瑞乃サリー、政岡泰志、菊地成孔、島本慶、若葉竜也、嶋田久作
配給/東京テアトル R15+ 3月17日(土)よりテアトル新宿、池袋シネマ・ロサほか全国公開
(c)2018「素敵なダイナマイトスキャンダル」製作委員会
http://dynamitemovie.jp

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最終更新:2018/03/16 20:26
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