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『ガチ星』全国公開記念クロスインタビュー

このドロ臭さは、「競輪版ロッキー」と呼びたい!! 『ガチ星』が生ぬるい邦画界に追込みを掛ける

どっから映画『ガチ星』で劇場デビューを果たした江口カン監督(写真左)と主演俳優・安部賢一。

 サイコーに熱い映画が、福岡からやってきた! 例えるなら、福岡県民のソウルフードである豚骨ラーメンと辛子めんたいを食べ合わせたような、こってり&スパイシーな味わい。福岡を拠点に国際的に活躍する映像ディレクター・江口カン監督の劇場デビュー作となる『ガチ星』がそれだ。高校卒業後、競輪選手を目指していたという異色の経歴を持つ無名俳優・安部賢一をオーディションで主役に抜擢。家族や友達の善意をことごとく裏切ってきた中年クズ男が、過酷な競輪の世界で再起を目指すという超泥くさい人間ドラマが繰り広げられる。キラキラ映画全盛の日本映画界にドロドロ映画で追込みを掛ける江口監督と主演の安部に熱い胸の内を吐き出してもらった。

 まずは『ガチ星』のストーリーを紹介しよう。主人公は福岡のプロ野球球団・ホークスの中継ぎ投手・濱島(安部賢一)。恵まれた体格と体力を誇る濱島だったが、登板する度に打ち込まれてしまう。憂さ晴らしで酒びたりとなり、戦力外通告されるはめに。妻や息子と別れ、親友の居酒屋でバイト生活を始めるも、親友の奥さんとゲス不倫。さらには酒、パチンコ、借金に溺れてしまう。生き地獄に陥った濱島がすがったのは、なじみの店主(博多華丸)のラーメン屋で聞いた「競輪学校には年齢制限がない」という情報だった。40歳を目前にした濱島は再起を賭けて競輪界へ飛び込むが、競輪学校で待っていたのは年齢の離れた濱島に対する猛烈なシゴキとイジメ。壮絶な闘いの中で、濱島はようやく自分に欠けていたものに気づく―。

競輪の世界に身を投じる濱島(安部賢一)。年齢制限のない競輪は、他のスポーツからの転向組が意外と多い。

 競輪の世界を舞台に、中年男の死にものぐるいの再生を描いた『ガチ星』。カンヌ国際広告祭で3年連続受賞するなど売れっ子CMディレクターだった江口監督が40歳を過ぎ、人生の折り返し地点からの新しい挑戦として選んだのが映画製作だった。東京ではなく、福岡だからこそ生まれた映画だと江口監督は断言する。

江口「普段は僕が生まれ育った福岡をベースにして仕事をしているんですが、映画製作はやっぱり東京だろうと、東京にいる映画関係者たちに企画を持ち掛けたんです。ですが、全員から無理だと言われました。いまどきの若者たちは競輪に興味を持たないと。言われたことはもっともなんですが、でも競輪の映画がないからこそ、僕はつくってみたいと思った。誰もやっていないからこそ、挑戦してみたいと。それで福岡のテレビ局(テレビ西日本)のローカル枠で深夜ドラマとして放送させてもらい、新たに音入れなどして再構成することで劇場版として完成させたんです。もちろん、キラキラ映画が人気なのは分かります。震災や経済の低迷が続き、明るい映画を求める人は多いでしょう。でも、僕はボクシングの世界を描いた『ロッキー』(76)や『レイジング・ブル』(80)、『どついたるねん』(89)みたいな男臭い映画が大好き。小倉が発祥の地である競輪を題材に、自分自身が熱くなった男のドラマを描きたかったんです」

 そう、『ガチ星』をひと言でいえば「競輪版ロッキー」の世界なのだ。怠惰な日常生活に流されてきた主人公がしっかりと現実を見つめ、体を張って闘うことでようやく覚醒を果たす。福岡から近い韓国のヤン・イクチュン監督&主演作『息もできない』(08)も、江口監督が刺激を受けた映画の一本だ。また、江口監督は福岡在住の川島透監督を“師”と仰いでいることも興味深い。川島監督は故金子正次が主演した『竜二』(83)で鮮烈なデビューを飾った。『ガチ星』に主演した安部も俳優として目立つ実績はなかったが、懸命に喰らい付くことで主役の座を手に入れた。

安部「中学までは甲子園を目指していたんですが、肩を壊して野球は断念しました。高校卒業後、父が競輪選手ということもあって、競輪学校を4回受験したんです。父からは厳しく鍛えられましたが、やはり家族ということで僕にどこか甘えがあったのかもしれません。結局、競輪学校の入学試験には100分の4秒ほど足りずに落ち、当時は年齢制限があったので諦めたんです。25歳で役者の道を目指して大分から上京したものの、オーディションに落ち続ける生活。40歳を迎え、最後のオーディションのつもりで受けたのが『ガチ星』でした。これに落ちたら、大分に帰るつもりだったんです」

クズ人間を演じた安部賢一だが、素顔は明るい。共演者とすぐ仲良くなるため、江口監督からは「誰とも口を利くな」と命じられた。

■恥も外聞もかなぐり捨てた最後のオーディション

 ところが『ガチ星』のオーディション直前に安部は体調を崩し、高熱を出してしまう。熱が下がらない状態のままオーディションに参加した安部は、全力を出しきれないまま落選。野球、競輪での失敗を経験している安部のキャリアに注目していた江口監督はOKを出したかったが、安部の明るさやスマートさがネックとなっていた。

江口「役者って、どうしても自分をよく見せようとしてしまうもの。僕がイメージしていた濱島の酒や人間関係にだらしない雰囲気と全然違ったんです。伊豆にある競輪学校でロケハンする際、被写体として彼をもう一度呼び、その合間に再度オーディションしたんですが、やっぱりダメ。諦め切れなかった彼は、その場で泣き出したんです。そこまでこの役に賭けているのかと分かると、こちらも情が湧いてしまう(苦笑)。後日、最後の最後のオーディションをやったところ、そのときはようやく身にまとっていたものを全て脱ぎ去って、カメラの前に立っていたんです」

安部「言い訳になると思って、僕からは口にしませんでしたが、実はずっと熱が下がらなかったんです。2度もオーディションに失敗したけれど、まだ主演俳優は決まっていないと分かったので、ここは泣いてでも喚いてでも、しがみついてやろうと(笑)。1週間後に行なわれた最後のオーディションは体調も回復し、自分のすべてをさらけ出す覚悟でした。多分、『ガチ星』に出ていなかったら、実家に戻って、それこそ濱島みたいに地元の友達を頼って働いていたと思います」

江口「僕は基本、役者の涙は信じないんだけどね(笑)。福岡の人間って、ダメなヤツに対してどこか甘さがあるのかもしれない。でも、最後のオーディションでは、彼は濱島そのものになりきってくれていた。僕もこの映画には賭けているので、これなら一緒に心中できる、信頼してタッグを組めると思えたんです」

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