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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.483

アメフトを見れば、その国の内情がよく分かる!? 国民性を丸裸にする観察映画『ザ・ビッグハウス』

 華やかなチアガールや吹奏楽団による応援、熱狂する観客席の様子を映し出す一方、カメラはバックステージへと入っていく。厨房では膨大な量のクラブサンドなどのスナック類が準備されていく。また、スタジアムの外ではストリートミュージシャンやダフ屋がスタジアムへと向かう家族連れに声を掛けている。フィールド上で肉体をぶつけ合っているプレイヤーたちも含め、体を使って働いているのは黒人が多いことに気づかされる。1万円前後するチケットを購入して客席で応援に励むウルヴァリンズのファンは圧倒的に白人が占め、年間670万円を払うVIPルームで観戦しているのは愛校心溢れる白人実業家たちだ。ナレーションやテロップの付いていない観察映画である本作は、観る人の見方によって様々なものを喚起させる。

試合前に祈りを捧げるウルヴァリンズの選手。学生スポーツながら、ウルヴァリンズの年間収益は日本プロ野球の各球団平均を上回る!

想田「ミシガン大学は常に世界大学ランキングの20位前後に位置している名門校ですが、私立のスタンフォード大学やハーバード大学とは違って州立大学です。しかし州からの助成金は、一般財源のわずか16%しか受けていません。6割が助成金で賄われている日本の大学とは大きく違うミシガン大学がどのような財政で成り立っているかというと、毎試合10万人以上を動員するウルヴァリンズの収益に加え、卒業生たちからの寄付金なんです。VIPルームの使用料年間670万円も含め、大学卒業後にビジネスで成功を収めた卒業生たちが税金の控除も兼ねて、母校に多額の寄付金を贈ることで、貧困層の学生たちは授業料を免除されて通うことができている。現役の学生も卒業生たちも、大学職員も含め、みんな愛校心がとても強い。そんなミシガン大学のシンボルとしてウルヴァリンズがあるんです。ウルヴァリンズが強いシーズンは寄付金も多いそうです。学生スポーツに頼った大学の経営が健全と言えるかどうかは疑問の余地がありますが、助成金を減らされないよう文部科学省の顔色を気にするだけの日本の大学は、参考にすべき点がいろいろとあるんじゃないでしょうか」

 米国ならではのナショナリズム、マッチョ信仰、社会格差、経済事情など、様々な要素が見えてくる本作。17人の監督たちが撮った多彩な映像は、ディスカッションを重ねた上で、想田監督が中心となって編集し、上映時間119分の映画へとまとめられた。また、撮影が行なわれた2016年秋は大統領選挙の真っただ中でもあり、トランプ大統領にちなんだ幻のエンディングが用意されていたことを想田監督は打ち明けてくれた。

想田「トランプが大統領に当選した直後の試合でしたが、スタジアムの前で反トランプのデモ行進が行なわれていたんです。デモといっても6~7人の女性を中心にしたとても小規模なもので、観戦に向かっていた白人の男性トランプ支持者たちが酔いに任せて、デモ隊に対して卑猥な言葉を浴びせてからかっていました。その様子を僕はたまたま撮っていたので、スタジアムのすぐ外で起きた面白い出来事だと思い、映画のエンディングにしていたんです。実際、かなり強烈なシーンです。ところが、スタジアムをいろんな角度から切り取った『ザ・ビッグハウス』ですが、このシーンを最後にすると全部このシーンに持っていかれてしまうと、17人の監督の間で賛否両論になりました。話し合っても決着がつかず、最後は僕が提案する形で民主主義的に決めようと、多数決をとることにしました。結果、圧倒的に『このエンディングはカット』に票が集まった(苦笑)。ミシガンの人たちにとっては、ビッグハウスはとても神聖な場所なんです。その場所がトランプに汚されるのが我慢ならないという空気も感じました。僕ひとりが監督だったら、このエンディングにしていたと思いますが、民主主義的なやり方で決めたので遺恨はありませんよ(笑)。僕の考えたエンディングは幻となりましたが、決してミシガン大学のプロモーション映像ではない、いろんな発見のある観察映画に仕上がったと思っています。学生たちもドキュメンタリーの理論を学んだだけでなく、実際に映画を責任感持って撮り上げたことで、短期間でものすごい成長を見せてくれました」

 かくして、米国社会の内情を映し出した『ザ・ビッグハウス』は完成した。今年4月より公開中の想田監督の前作『港町』が日本社会の縮図のようなミニマムかつ静謐な世界を描いていただけに、とても対照的な作品となっている。機会があれば、過疎化が進む地方の集落を舞台にした『港町』と『ザ・ビッグハウス』を見比べてほしい。両作を見比べることでの発見もあるだろう。また、世代も国籍も異なる他の映画作家たちとの共同作業を経験したことは、想田監督にとって大きな刺激にもなったようだ。

想田「これまでは一人でカメラを回してきたんですが、ケースによっては大人数でカメラを回すのもいいかなと考えるようになりました。大きなスケールのものには、今後も挑戦してみたいですね。2020年の東京オリンピックも興味あります。もし、東京五輪を撮らせてくれるなら、喜んで撮ります。でも、僕が最終的な編集権を持つという点だけは絶対に譲れませんけどね。それでよければ、ぜひ(笑)」

 想田監督が撮る観察映画はこれからどんな社会を切り取り、新しい発見をもたらせてくれるのか楽しみではないか。
(文=長野辰次)

『ザ・ビッグハウス』
監督・製作・編集/想田和弘
監督・製作/マーク・ノーネス、テリー・サリス
監督/ミシガン大学の映画作家たち
配給/東風 + gneme 6月9日(土)より渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開 
(c)2018 Regents of the university of Michigan
※想田監督の新刊『THE BIG HOUSE アメリカを撮る』(岩波書店)が発売中。
http://thebighouse-movie.com

最終更新:2018/06/09 04:45
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