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アイスクリームより甘い周作とすずの新婚生活!! 劇場版と火花散らす『この世界の片隅に』第3話

TBS系『この世界の片隅に』番組公式サイトより

 こうの史代原作のベストセラーコミックを実写ドラマ化した『この世界の片隅に』(TBS系)。オーディションで抜擢された松本穂香がTBSの人気ブランド枠である「日曜劇場」の主演を務めるというハラハラ感と、絵を描くこと以外に取り柄のない平凡な女の子・すずが嫁入り先でトライ&エラーを重ねるドキドキ感がシンクロしていく形で物語は進んでいます。第3話ではすずたちが暮らす呉に空襲警報が鳴り響き、本土にも戦火がいよいよ近づいていることを感じさせます。一方、劇場アニメ版の製作委員会が公式サイト上で、実写ドラマ版に対して「当委員会は一切関知していません」と異例の発表をするなど、場外も怪しい雲行きとなっています。風雲急を告げる第3話を振り返りたいと思います。

(前回までのレビューはこちらから)

 昭和19年(1944)6月。すず(松本穂香)が北條家に嫁いで3カ月が経ちました。ついに呉にも空襲警報のサイレンが鳴り渡ります。軍港のある呉は狙われやすい街でした。北條家はお隣りの刈谷家と合同で防空壕を掘ることになります。みんな泥だらけになりながらの作業中、すずは夫の周作(松坂桃李)が働く姿を眺めてはニヤニヤしていました。戦争の真っただ中ですが、優しい周作と一緒に暮らすことができて、すずは幸せいっぱいです。小姑の径子(尾野真千子)や周作にずっと片想いしていた刈谷幸子(伊藤沙莉)は呆れ顔ですが、すずはまるで気がつきません。

 道端に生えていたタンポポを摘み、根っこをキンピラに、葉っぱをおひたしに、煎った玄米を3倍の水で増量させる「楠公飯」などの戦時下のサバイバルクッキングさえも、今のすずには楽しい非日常の中の日常でした。「楠公飯」は原作&劇場アニメ版でもおなじみの献立ですが、どうせならどんな味なのかを、普段は影の薄い義父・円太郎(田口トモロヲ)あたりに細かい食レポをしてほしかったところです。

 

■遊女役を演じる二階堂ふみの妖艶さ&存在感

 第1話&第2話ではキャラメルが周作とすずを結びつけた重要ツールとして使われましたが、第3話ではアイスクリームがその役割を果たします。残り少ない砂糖が入った壺を、すずは手を滑らせて水がめの中に落としてしまいます。義母のサン(伊藤蘭)からヘソクリを渡され、闇市まで砂糖の買い出しに出掛けたものの、ぼーとしていたすずはその帰り道に遊郭街へと迷い込んでしまうのでした。そこで出逢ったのが遊女・白木リン(二階堂ふみ)です。地面にスイカの絵を描いていたすずに、リンは優しく声を掛け、「長ノ木」への帰り道を教えるのでした。リンにとって、スイカは少女時代の忘れられない思い出の味です。第1話に登場した座敷わらじみたいな少女の成長後の姿がリンであり、また周作が以前に結婚を考えていた相手もリンだったのです。何という奇遇でしょう。

 すずもリンも子どもの頃に一度逢っていたことには気づきません。ですが、すずの姓が「北條」で、最近「長ノ木」へ嫁いだと知り、周作の結婚相手がすずだとリンは察しました。それまですずがまだ食べたことのないアイスクリームの美味しさを楽しそうに話していたリンですが、「北條? ふ~ん、ヘぇ~。さぁ早よ、旦那さんのもとに帰り」と態度を急変させるのでした。自分と違って平凡な幸せな生活を手に入れたすずに対する嫉妬心が、短い言葉の端々に滲んでいます。リンの複雑な心理を演じる二階堂ふみの演技のうまさが際立ったシーンでした。

 一方、軍事関係の裁判所に勤める周作にも重要な出会いが待っていました。呉に上陸していた水兵たちから「なんじゃ、文官か」「呑気な顔しとるわ」と小バカにされ、周作はケンカに巻き込まれてしまいます。このとき、ケンカの仲裁に入ったのが水原哲(村上虹郎)でした。「これから厳しい任務が待っているんです。勘弁してください」と素直に頭を下げる好青年です。予告編では水原哲が登場するので、原作にある北條家での入湯エピソードに繋がるのかなと思っていたのですが、ここは脚本家・岡田惠和のオリジナルエピソードでした。すずとリンが再会した同じ日に、周作は水原と遭遇したのです。若い4人の恋愛関係は、この後も回転木馬のようにグルグルと回り続けることになりそうです。

 

■賛否分かれる連続ドラマならではの盛り上がり

 しばらくして、すずに電話が掛かってきました。周作からの電話で、職場にまで書類を届けてほしいとのことです。すずが急いで書類を持っていくと、それは周作の粋な計らいでした。義母や義姉と昼間はずっと一緒のすずを気遣い、たまには夫婦水入らずで食堂でご飯でも食べようというアイデアでした。慌ててやって来たすずが後ろを向いているので「怒ったんか?」と周作が尋ねると、「しみじみニヤニヤしとるんです!」と周作をドツキます。原作&アニメ版と違って広島弁になっていないのが残念ですが、嫁入りしたすずの幸せの絶頂ぶりを伝えるエピソードでした。

 上映時間126分に凝縮された劇場アニメ版と違い、実写ドラマ版は週イチでのオンエアなので、各話ごとに盛り上げるクライマックスを用意しなくてはいけません。その分、原作ともアニメ版とも違ったオリジナル展開に良くも悪くもなってしまいます。第3話では食堂で周作と一緒に雑炊を食べることができただけで充分にときめいていたすずですが、実写版の周作はさらなるサプライズを用意していました。一度もアイスクリームを食べたことがないすずのために、食堂を経営する中学時代の同級生に頼んで特別にアイスクリームを作らせていたのです。さすがはR18映画『娼年』(2018)で人気男娼役を演じている松坂桃李です。女心のツボを巧みに突いてきます。

 甘さに飢えていた時代だけに、周作の優しさが甘くトッピングされたアイスクリームは格別な味だったことでしょう。贅沢はしない質素な生活の中に幸せを見出すことが原作&劇場アニメ版の主眼となっていたので、テレビ的に分かりやすいこのアイスクリームのエピソードは、かなりギリギリのネタで、賛否が分かれるところです。ですが、この先のすずには想像を絶する悲劇が降り掛かることになるので、連ドラの序盤くらいは甘い思いもさせてもいいかと、つい思ってしまいます。これから米軍の空襲が本格化し、第3話の甘い甘い夏の思い出がより激しいギャップを生み出すことになっていきます。周作と仲良くアイスクリームを食べっこして笑顔を見せているすずですが、今ある幸せをしっかり味わうしかありません。

 冒頭で触れた劇場アニメ版の製作委員会のネット上での告知の件ですが、正確には【現在放送中の漫画『この世界の片隅に』を原作とする実写ドラマに「special thanks to 映画『この世界の片隅に』製作委員会」と表記されていますが、当委員会は当該ドラマの内容・表現等につき、映画に関する設定の提供も含め、一切関知しておりません。2018年7月24日「この世界の片隅に」製作委員会】というものです。劇場アニメ版は原作に惚れ込んだ片渕須直監督が自腹を切って調べ上げた時代考証の詳細さに観客は唸らされたのですが、TBSはエンドロールで謝辞を述べながらも、劇場アニメ版の製作サイドには断りを入れていなかったようです。第3話のエンディングでも「special thanks」のクレジットはされたままですが、TBS側は同じコミックを原作としながらも独立したオリジナル作品というスタンスで今後も進めていくようです。

 7月26日には、映画『この世界の片隅に』製作委員会が、劇場アニメ『この世界の片隅に』のロングバージョンとなる『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』を今年12月に劇場公開することを正式発表しました。リンとすずとの交流シーンが増え、原作になかった新エピソードも盛り込まれるそうです。劇場アニメ版と実写ドラマ版との間で静かに散っていた火花が、にわかに表面化した格好です。原作にはすずの姑である北條サンが「みんなが笑うて暮らせりゃええのに」と呟く名台詞がありますが、現実世界はなかなかそうはいかないようです。

 気になる第3話の視聴率は、9.0%(ビデオリサーチ調べ/関東地区)でした。榮倉奈々が登場する現代パートが冒頭だけと控えめだったので、3週連続で10%をキープできるかもと思いましたが、「special thanks」の件が災いしたのか数字は伸びませんでした。8月からは悲惨なエピソードが波状攻撃で押し寄せてくるので、TBSとしては7月の間にもう少し数字を上乗せしておきたかったところでしょう。どんな運命が実写版すずに待っているのか、場外戦の行方を含めて追っていきたいと思います。
(文=長野辰次)

最終更新:2018/07/30 20:00

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