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昼間たかしの100人にしかわからない本千冊 50冊目

文章を書く意志のための原動力としての『彼らの流儀』

『彼らの流儀』(朝日新聞社)

 なんと、連載も50冊目である。よくも、こんなに続いているものだと自分を褒めてあげたい。

 とはいえ、タイトルに「千冊」とつけているので、連載はまだ果てしなく続く。

 こうやって、日々文章を書いているわけだが、どうしても書けない日はある。取材もして、資料が山のように揃っていたとしても、書き出しや、流れに詰まってしまうことはあるのだ。

 だいたい、書いている時間よりは「どういうふうに書こうか」と考えている時間のほうが長いものである。

 だから煮詰まってしまった時には、他人の文章を読む。パクるのではない。流れを参考にするのだ。

 流れをつかむわけだから、シンクロ率の高い書き手、すなわち心性に共感できる書き手のものが参考になる。ただ、心性に共感できても、いざ参考にしようとすると難しい書き手というのも多いもの。たとえば、平岡正明の文章は根底に流れる思想にワクワクするものだが、いざ同じような文章を書くとなると困難。あれは、独特のフィーリングジャズだから、真似ようとするとプロの演奏の中に「最近楽器を始めました~」という素人が混じっているような雰囲気になってしまうのは否めない。

 結局、人それぞれなのだろうが、参考として使いやすいのは、まず沢木耕太郎。それも、最近の作品ではなく、以前の作品である。

 雑誌やネットの記事なんかを書くときには『彼らの流儀』(朝日新聞社ほか)なんかがちょうどいい。

 1991年に刊行されたこの本は、沢木がノンフィクションの書き手として一時代を築いてからの作品。掲載されているのは、すべてが短編の分量にも満たない掌編。

「緑のカップル」では、偶然テレビCMに出演し、理想的な夫婦を演じたメーカー社員のその後を描く。「ラルフ・ローレンの靴下」では、かつて出会った作家志望の若者とのことを。収録されている作品は、人によって捉え方が違う。ある人はコラムだというし、ある人はショート・ショートだという。ともかく、沢木自身が開拓した「私ノンフィクション」の先が、これである。

 いずれも事実を出発点に描かれるのは、沢木自身の解釈か、あるいは夢想か。そこから匂い立つのは、いかなるテーマで書く時でも、ちゃんと立脚点がなければ成立し得ないということ。珍しいものを見ただとか、奇妙な人にあっただとか「事件」を描くだけでは中身のある文章は書けない。

 いつもすべてがそうはならない、といっても時間の許す限りは、かくありたい。そんな思いが原動力になって、また机に向かう。
(文=昼間たかし)

最終更新:2019/11/07 18:35
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