個人主義の時代を生き抜くために──現代によみがえるアドラーの原著『生きる意味』

2019/02/19 22:30

『生きる意味 人生にとっていちばん大切なこと』(興陽館)

 アドラー心理学ブームが続いている。2013年、アドラー心理学を対話形式でわかりやすく紹介した岸見一郎氏と古賀史健氏の共著『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)が、176万部の大ベストセラー(2018年5月31日調べ)となり、出版されてから5年がたった現在でも、売り上げランキングの上位を占めている。同作は韓国でも115万部を超えるベストセラーとなり、舞台化・TVドラマ化も果たした。『嫌われる勇気』の成功以来、ちまたにはアドラーの名を冠した関連書籍があふれ、“アドラーバブル”の状況が今なお続いている。

 アドラーの名前を借りた書籍は数多くあるが、アドラーの著した原著はそれほど読まれているとはいえないのが現状だ。『生きる意味 人生にとっていちばん大切なこと』(興陽館)は、アルフレッド・アドラーが1933年に発表した心理学の古典だ。自我やコンプレックス、子どもの成長、精神疾患などについて、臨床例を交えて具体的に説明している。

 そもそもアドラー心理学とは一体どういうものなのか。アルフレッド・アドラー(1870年~1937年)は、20世紀初頭に活躍したオーストリアの精神科医で、フロイト、ユングと並ぶ心理学界の三大巨頭とされている。フロイトのウィーン精神分析協会の中心的メンバーだったが、のちに学説上の対立から脱退した。アドラー心理学の主な特徴として、過去の特定の出来事(トラウマ)に起因して現在があるのではなく、現在の在り方は今何をするのかを選択できるとする「目的論(トラウマの否定)」、特定の人から嫌われないように生きる人は自分の人生を生きておらず、幸福になることはできないとする「承認欲求の否定」、他者が自分のことをどう思うのかは他者の課題であり、そこに介入することはできないとする「他者と自分の課題の分離」、人は共同体への貢献で幸福になれるとする「共同体感覚」への言及などが挙げられる。

 本書では特に「共同体感覚」について繰り返し述べられている。アドラーは他者との生活、仕事、愛の3つの問いを揚げ、全ての悩みは対人関係の中で生じ、これらは人類にとって避けられない命題であるとしている。他者と生きる共同体感覚が十分に育っていない人は、これらの問題を正しく解決できず、職場や学校など共同体への所属に問題を抱え、自殺、犯罪、依存症、神経症、精神障害などが誘発される危険があるのだという。では、共同体感覚を身につけ、人生の問題を解決するにはどうすればいいのか。適切なマナーを身につける、身体器官の文化的機能(コンプレックス)を受け入れる、遊び・学校・修業のなかで協力の準備をしていく、異性を尊重する、こうしたすべての問いに対して肉体的にも精神的にも準備を整えるなど、アドラー先生はなかなか手厳しい。

 他者と自分の課題を明確に区別していることから、アドラー心理学は「個人心理学」と呼ばれ、それゆえ個人の時代を生きる現代人に強く訴えるのだろう。戦前の著作であるため、古い面があることは否めないが、それでも承認欲求や共同体感覚の論考は深く共感できる。SNSなどが発達し、人間関係で息苦しい現代において、心理学の名著は生きる意味を見いだすための道しるべとなってくれることだろう。
(文=平野遼)

最終更新:2019/02/19 22:30

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