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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.526

『ハロウィン』のブギーマンはミソジニストか? 伝説の凶悪殺人鬼と被害者一家との40年戦争!!

その人物は、意外なアノ人!

 マイケルが脱走したことを喜んだのは、40年前に彼に襲われたローリー(ジェイミー・リー・カーティス)だった。かつての事件がトラウマとなり、ローリーはすっかり変人となっていた。自分の手でマイケルを仕留めるチャンスが訪れたと舌なめずりするローリー。この日がいつか訪れることを予感し、あらゆる武器を備え、森の中の一軒家を要塞のようにリフォームして待っていた。19世紀の哲学者フリードリヒ・ニーチェの有名な言葉に「怪物と闘う者は、その過程でおのれも怪物化せぬよう心せよ」(『善悪の彼岸』より)とあるが、まさに元女子高生ローリーは、怪物と対峙するために自分も怪物となったのだった。

 ローリー役で一躍“スクリーミング・クイーン”として人気を得たジェイミー・リー・カーティス。そんな彼女がリアルに40年の歳月を経た初老のローリー役を熱演しているのが、新作『ハロウィン』、いや新約『ハロウィン』の大きな見どころだ。ローリーは“闘うヒロイン”の先駆者でもある。

『ハロウィン』のブギーマンはミソジニストか? 伝説の凶悪殺人鬼と被害者一家との40年戦争!!の画像3
歴史は繰り返す!? オリジナル版の不気味なラストシーンが、新約『ハロウィン』でも再現されることに。

 ホラーファンタジーだった旧約『ハロウィン』の世界が、ファンから長く愛され続けたことで、伝説の巨大クジラとエイハブ船長との宿命の戦いを綴ったメルヴィルの長編小説『白鯨』のような文学的深淵さを漂わせるものとなった。ローリーには娘カレン(ジュディ・グリア)がいるが、強迫観念にとらわれた母親に育てられたせいで、つらい日々を過ごしてきた。物心がついた頃から射撃の訓練をさせられ、今では母娘関係は最悪なものに。再び大きな災いが街を襲うことを訴える母親に、カレンは呆れ返ってしまう。そして今回、マイケル・マイヤーズが狙うのは、カレンの娘アリソン(アンディ・マティチャック)。つまりローリーの孫娘が、ハロウィンの夜に追い掛け回される。なんという因果だろう。マイケル・マイヤーズという不死身の怪物と、ローリー家の女三代にわたる40年戦争が新約『ハロウィン』のメインストーリーだ。

 マイケル・マイヤーズは6歳のときに姉ジュディスを殺害し、成人後はローリーを執拗に襲い続ける。『ハロウィン』の大ヒットにより、イチャイチャしているカップルは殺人鬼から真っ先に標的にされるというホラー映画の不文律が確立されることになった。そんなことから、マイケル・マイヤーズは女性嫌い(ミソジニスト)かと思われがちだが、新約『ハロウィン』のマイケル・マイヤーズは、性的格差を設けることなく男女平等に殺戮を重ねていく。ミソジニーだとか、セックス恐怖症だとか、そういったカテゴライズから、ブギーマンことマイケル・マイヤーズはするりと抜け出してしまう。澤村伊知のホラー小説『ぼぎわんが、来る』(KADOKAWA)では室町時代に南蛮文化と共に“ブギーマン”の概念が日本にも伝わり、“ぼぎわん”として土着化したというユニークな説が語られている。神出鬼没で、いつの間にかあなたの後ろに立っている怪物、それがブギーマンだ。

 ベテラン女優ジェイミー・リー・カーティスが40年間にわたって演じてきたローリーは、ブギーマンことマイケル・マイヤーズを自分の手で倒すことでトラウマを克服しようとする。もはや、マイケル・マイヤーズという負の存在と向き合うことが、彼女の人生の大半を占めることになった。マイケル・マイヤーズを葬り去れば、ローリーとその家族には幸せが訪れるのだろうか。

 哲学者ニーチェはこんな言葉も残している。「なんじが平和を求めるならば、それは新しい戦いの準備としてのそれでなければならない。永い平和よりも短い平和を求めよ」(『ツァラトゥストラ、かく語りき』より)。

(文=長野辰次)

『ハロウィン』のブギーマンはミソジニストか? 伝説の凶悪殺人鬼と被害者一家との40年戦争!!の画像4

『ハロウィン』
監督・脚本/デヴィッド・ゴードン・グリーン 
音楽/ジョン・カーペンター、コディ・カーペンター
出演/ジェイミー・リー・カーティス、ジュディ・グリア、アンディ・マティスチャック、ニック・キャッスル
配給/パルコ R15+ 4月12日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
C)2018 UNIVERSAL STUDIOS
https://halloween-movie.jp

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最終更新:2019/04/05 19:30
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