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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.537

安倍政権の長期化は「内閣情報調査室」のおかげ!? 官僚制の闇に迫る危険なサスペンス『新聞記者』

現在進行形の問題を扱った社会派ドラマ

新聞記者の吉岡(シム・ウンギョン)は疑惑の真相を解明しようとするが、新聞社、さらには記者個人にも政権からの圧力がかかる。

 注目すべきは、松坂桃李が演じるもうひとりの主人公・杉原だ。外務省でキャリアを積んできたエリート官僚の杉原だが、内閣府へと出向となり、「内閣情報調査室」で働くようになる。“内調”と呼ばれるこの諜報機関は、非常に謎が多い。安倍総理は菅官房長官よりも内調のトップである内閣情報官と綿密に接していることでも知られている。

 劇中の杉原は、現政権を守るための情報操作やマスコミ工作をもっぱら手掛けている。現政権にとって不都合な言動をする人物は内調によってマークされ、尾行のプロである公安がその人物の周辺を洗い、弱点を探り出す。杉原の上司である内閣参事官の多田(田中哲司)はマークした人物は民間人でも「犯罪者予備軍」と呼び、公安がつかんだスキャンダルをマスコミやSNSへとバラまき、社会的に抹殺するよう杉原に指示するのだった。

 公僕として国民のために汗を流すことを生き甲斐にしてきた杉原は、内調での仕事が苦痛だった。とはいえ、妻の奈津実(本田翼)はもうすぐ出産を控えており、今の生活を放り出すこともできない。そんなとき、外務省時代の尊敬していた上司で、数年前から内閣府の別の部署にいた神崎(高橋和也)が高層ビルから投身自殺を遂げたという悲報が届く。怪文書のキーパーソンとして神崎に注目していた吉岡と神崎の通夜に参列した杉原は、悲しい出会いを果たすことになる。

 日本映画ではとても珍しい現在進行形の問題を扱った社会派ドラマであり、謎多き諜報機関「内閣情報調査室」に果敢にスポットライトを当てたことを評価したい。自殺した神崎が勤めていた内閣府は、各省庁からの出向者がほとんどで、プロパーは少ないという。組織としての自律性が低く、官邸側の意向に逆らうことができない。内閣府に勤める公務員たちは元の省庁に戻りたいがゆえに、上からの指示に粛々と従い、与えられた仕事を黙々と片付ける。それが汚れ仕事だと気づいても、気づかないふりをする。まさに盲目の羊たちだ。この国にはびこる悪しき組織構造を、本作は浮かび上がらせる。

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