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炎上した『あいちトリエンナーレ表現の不自由展』の裏側で、参加作家が対応する「コールセンター」が見た希望

「Jアート」が勝ち取った、不自由展再開というドラマ

──今回の騒動によって、多くの人々から、『不自由展』に対して「税金を使う」という部分に大きな疑問の声が集まりました。そのような声に対して、アーティストとしては、どのように感じているのでしょうか?

高山:とても線引きが難しい問題ですよね……。

 僕個人としては、社会は一個の身体であると思っています。それを健全に保っていくためには、マイノリティに向けた表現、あるいはマジョリティの基準では不快なものも必要になる。それが、時に毒のように、時に薬のように作用するのが芸術だと考えています。

 無菌室に入れ、不快なものを排除していくと社会は弱くなっていく。それは歴史が証明しており、いちばんのいい例がファシズムです。マイノリティや不快なものを排除していくことによって、最後は社会全体が崩壊する。排除されていた側はもちろん、排除していた側もみんな不幸になってしまう。社会の健全さを保つためには、毒もいれなければならない。だから、たとえ多くの人に不快を与える芸術であっても、公金を使って社会の中に育んでいく必要があると考えています。

──社会という身体を維持していく上では、マジョリティにとっては不快で毒にもなる芸術が必要である、と。

高山:そう。それに「公共の利益になるかどうか」を判断するには、時間的な問題もあります。短期的には「毒」のように感じられても、長期的には「薬」になるものはたくさんある。長期的な視野に立って見ていかなければ、芸術作品は成り立たないんです。その意味で、この件を受けて助成要綱を改正し「公益性で不適当なら助成取り消し」とした文化庁の決定に対しては真っ向から反対します。

──今回、多くの海外から招聘された作家が自作をボイコットしました。国際的な目線から見て、日本のアートはどうなっていくと思いますか?

高山:最初にボイコットをしたのは、韓国や南米など、海外の作家たちでしたよね。日本のアーティストは「なぜボイコットをしないのか?」という批判を受け、「失望した」とも言われました。海外のアーティストは「検閲は絶対に反対」という考えのもと、よくも悪くも原理主義的で純粋な方向がスピーディに推し進められていった。

 彼らの行動は最大限尊重します。しかし、そんなに単純な話には思えなかったし、今回のような「日本的な検閲」に対しては、国際的なスタンダードは通用しない。その中で、日本のアーティストの多くは対話をし、連帯が生まれ、つながりを待ちながら粘り強い交渉をしていきました。過去、展覧会において、一度閉鎖されたものが空いたことはありません。それなのに、不自由展の再開が達成された。こんなドラマはないですよね。

──原理主義的になるのではなく、交渉し、対話を重ねたからこそ再開が可能になった。

高山:もちろん、アーティストだけではなく、大村知事、津田芸術監督、県職員、事務局、キュレーター、アーティスト、全部が展示再開に向けて動き、粘り強く活動した。ボイコットによるプレッシャーも、うまく機能した。対立し、断絶を深めるのではなく、対話と交渉を重ねる。

 そんな発想は、欧米が中心となっているアートの世界で理解されるのには時間がかかりますが、この強みを理解してほしいと思います。異なった考えの人々が互いを排除せずにやっていけること、そんな日本的あるいはアジア的な発想は、日本のアートが持つ、とても大きな魅力なんです。

 ただし、そんな姿勢が現実の政治に対してどこまで有効かはわからないし、有効でない可能性の方が高い。それは今後、あいちトリエンナーレという場所から離れて日本のアート全体が考えていくべき課題であると考えています。

高山 明(たかやま・あきら)
1969年生まれ。2002年、演劇ユニットPort B(ポルト・ビー)を結成。実際の都市を使ったインスタレーション、ツアー・パフォーマンス、社会実験プロジェクトなど、現実の都市や社会に介入する活動を世界各地で展開している。近年では、美術、観光、文学、建築、都市リサーチといった異分野とのコラボレーションに活動の領域を拡げ、演劇的発想・思考によって様々なジャンルでの可能性の開拓に取り組んでいる。

ロゴデザイン/鷲尾友公

最終更新:2019/11/27 18:49
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