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エッジ・オブ・小市民【7】

2020年1月1日に死んだ小さな赤ちゃんと、この社会

文=堀田功(ほった・こう)

イメージ画像/出典:atkinson000

 アメリカとイランがあわや戦争、保釈中のカルロス・ゴーンが大脱走、オーストラリアで過去最大規模の山火事発生と、2020年始まって早々に世界を騒がす事件が次々と起きている。そんな大きなニュースに埋もれてしまったが、新年1月2日にもまた、とても悲劇的な事件の報道があった。東京・足立区で小さな赤ちゃんが死に、その母親が逮捕されたのだ。

浴室で出産して翌日から働きに出た母親の“罪”

 いくつかの報道からわかる事件の概要は次の通りだ。

 1月2日、東京都足立区のアルバイト従業員女性(31歳)が、警視庁西新井署に逮捕された。逮捕容疑は保護責任者遺棄致死。逮捕された女性は昨年12月28日朝に女の子を出産したが、出産の翌日から連日、その生まれたばかりの赤ちゃんを放置して、死亡させた疑いが持たれているということだ。

 逮捕された女性と赤ちゃんの状況を見れば、この事件の背景がいわゆるネグレクトや虐待とは異なることがわかるだろう。

 女性は妊娠中に妊婦健診を受けていなくて、赤ちゃんを出産したのは一人暮らしをしている自宅の浴室。出産後も医療機関を受診していなかった。それでも薬局などで粉ミルクや哺乳瓶を購入し、赤ちゃんにはベビー服を着せていた。出産翌日の29日と30日に長時間自宅を空けたのは、掛け持ちしていたパチンコ店とキャバクラのアルバイトのためだった。そして1月1日の夜、彼女は「子供が動かなくなった」と自分から119番通報。駆けつけた救急隊員が心肺停止状態の赤ちゃんを発見し、搬送先の病院で死亡が確認された。彼女は容疑を認め、「30日ぐらいから泣き声がかすれ、手足の動きが鈍くなっていた」「お金がなかったから病院に連れていけなかった」「周囲に相談できる人がいなかった」などと話しているという。死んだ赤ちゃんの体重は1360グラム。“極低出生体重児”だった。

 彼女は確かに赤ちゃんを“放置”したのかもしれないが、粉ミルクや哺乳瓶、ベビー服を用意していることからも、自分なりに育てようとする気はあったのだろう。しかし、ひとりで誰にも頼れず、相談することもできなかった彼女には、どうやって生まれたばかりの赤ちゃんを育てればいいのかわからなかった。そもそも極低出産体重児は、NICU(新生児集中治療室)に入院し、専門的な医療ケアを受ける必要がある。その小さすぎる赤ちゃんは、母が用意した哺乳瓶でミルクを飲むこともできないのだ。妊娠してから出産まで、医療機関の受診すらしていなかった彼女は知らなかったのだろう。

 もちろん、妊娠したことがわかり、その時点で「お金がないから病院に行けない」のなら、行政や福祉に支援を求める必要があった。しかし、「お金がないから病院に行けない」と思い込んでいるようなら、自分が行政や福祉の支援、サービスが受けられることも知らなかっただろう。どこになんの相談をしにいけばいいのか、それすらもわからなかったはずだ。妊娠という人生の重大事を誰にも相談することができず、不安を抱えたまま彼女の腹は少しずつ大きくなり、ひとりきりで赤ちゃんを産んだ。その翌日からアルバイトに行った。自分が働かないことには子供を育てる金も稼げないし、休めば仕事を失う可能性もある。追い詰められていた彼女は、その恐怖から出産直後の精神的にも肉体的にも疲弊しきっているときに、赤ちゃんを置いて働きにてしまったのだろう。そして、それが彼女の罪になった。

 自分が彼女の立場だったらどうしただろう——。一度考えてみてほしい。

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