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萱野稔人と巡る超・人間学

萱野稔人と巡る【超・人間学】人間の本性としての暴力と協力(後編)

“仲間はずれ”に 痛みを感じる脳

萱野 集団同士で資源を奪い合う状況になれば、うまく統率のとれた集団ほど強くなり、より多くの資源を獲得できます。その点で、集団の進化・発展は暴力への意志をバネにしてきたともいえるでしょう。と同時に、人間は集団から排除されると生きていけない存在であることを考えるなら、人間はその暴力への意志をバネにした集団の進化・発展に同調していくような傾向があることにもなりますね。

川合 人間は本質的に集団から排除されることを非常に恐れますから、そこは変わらないでしょう。子どもは友達から仲間はずれにされることをものすごく嫌いますが、これは人間に根付いた根本的な性質なんです。たとえば、仲間はずれなどで集団から排除されると、人間の脳は物理的に身体に痛みを感じたときに反応する領域が活性化することがわかっています。よく「心が痛い」という比喩が使われますが、脳は本当に痛みを感じているんですね。また、逆に実験参加者に指示をして、コンピューターゲーム中に意図的にプレイヤーのひとり(実はコンピューターのプログラム)を仲間はずれにするという実験では、実験参加者は仲間はずれにされたときと同程度の苦痛を感じ、さらに恥や悔恨といった感情をより強く感じることがわかりました。人は仲間はずれにされることだけではなく、咎のない人を仲間はずれにすることにも強い抵抗感があると考えられます。

萱野 それでも仲間はずれやいじめ、集団からの排除といった現象が人類社会の多くに見られるのはなぜなのでしょうか?

川合 同じ集団の中にもさまざまなグラデーションがあります。小学校のクラスという集団を例にしてみれば、その中に仲良しのグループがいくつかあり、1班、2班といった班ごとのグループ、同じクラブに属しているグループ、同じ地域に住んでいるグループ、また男女でのグループ分けなど、より細かいグループの輪が何重にも重なっています。それぞれのグループがメンバーを選別することで、集団内の“凝縮性”を高めて、自分たちの仲間意識を強くしたいという欲求が、仲間はずれのような現象を生み出しているのでしょう。いじめは小・中学校で多く発生し、高校になるとだいぶ減って、大学ではさらに少なくなります。これは自分の集団に対する“帰属意識”が希薄なときに、より集団への帰属志向が高まって他者を排除しようという気持ちが強くなるからだと考えられます。大人であっても、日本を離れて外国に居住していると当然、その国では帰属意識が持ちづらい。だから、日本人だけの“日本人ムラ”のようなものを形成して、よそ者は排除しながらお互いに協力し合って結束を固めることで帰属意識を高め、安心を得るんですね。

萱野 いわゆるフリーライダー、つまり自分では集団への協力行動をとらずに集団からもたらされる利益だけを得ようとする人たちですが、そうしたフリーライダーを罰するための排除というケースもありますよね。

川合 はい。これもさまざまな研究があって、スタンフォード大学のマシュー・ファインバーグらが行った『公共財ゲーム』が有名です。実験参加者は4人でグループをつくり、皆でいくらかのお金を出し合って“投資”をするというゲームを行います。このゲームは全員がお金を出すのが合理的なルール設計になっているのですが、ひとりだけ金を出さないで“ただ乗り”すると、もっとも儲かるようになっているんです。ゲームを進めていく中で、ただ乗りをしている人が誰だかわかると他のプレイヤーたちは、そのフリーライダーを罰し、排除する傾向にあることが示されました。

萱野 人間は集団的に協力することで生きるための資源を獲得し、他の集団との競争にも勝とうとしてきたわけですから、協力関係を維持するためにフリーライダーを罰するのは、ある意味、当然の生存戦略となりますよね。

川合 一方で“80・20の法則”というものもあります。これは働きアリの生態として有名ですが、全体のアリの中で一生懸命に働いているのは8割だけで、残りの2割はあまり働かないで休んでいる。このサボっている2割を排除すると、残った働き者のアリのうち2割がサボりだす。逆に排除された怠け者のアリだけを集めると、そのうちの8割が一生懸命に働き始める――この法則は人間のさまざまな集団活動にも当てはまるといわれています。実は働かない2割のフリーライダーは、ただサボっているだけではなく、ある意味で社会のバッファとして存在しているんですね。それをどんどん排除をしていくようなことになると、それはそれで社会を回していくのは厳しくなると感じるし、個人的にはもっと寛容であっていいのではないかと考えています。今の日本は高齢社会になって財政難でもあることから、高齢者に対する態度はかなり厳しいものなっていますが、社会の成熟につれて変化していく可能性もあるのではないかと。

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