日刊サイゾー トップ  > 休校要請から見える“国難”
エッジ・オブ・小市民【10】

安倍総理の思いつき休校要請から見える“国難”と決定的に損なわれてしまったもの

安倍総理の決断は得意の“やってる感”を作るため!?

 2月29日、満を持しての安倍総理記者会見が開かれた。しっかりと全国一律休校の根拠を語ってくれるかと思いきや、安倍総理はいつも通り威勢がいいだけで具体性に欠けるふわふわしたスピーチの後、事前に提出されていた質問に回答原稿を棒読みしただけで、記者席からの「まだ質問があります」という声を無視しておうちに直帰。「責任から逃れるつもりは毛頭ない」と言っていたが、さっそく国民への説明責任から逃げてしまった。そして、翌週3月2日の衆院予算委員会。安倍総理は休校要請について「直接、専門家の意見を伺ったものではない。判断に時間をかけるいとまがない中において、私の責任において判断させていただいた」と言ってのけた。いや、判断する前に専門家に聞いてよ。感染症のことよく知らないでしょ。

 もちろん、新型コロナウイルスは詳しいことがわからない未知のウイルスだ。専門家の間でも、対応について意見が割れることもあるだろう。そうであれば、それぞれの科学的知見に基づいたリスクとベネフィットを考慮したうえで、自身の責任において判断を下すことこそが政治的決断のはずだ。専門家の意見も聞かず、ほかにこれといった根拠もないのであれば、それは単なる思いつきである。そして当然のように「根拠がない」ことについて批判を浴びまくった安倍総理は翌3日になって唐突に「1918年から流行した“スペイン風邪”をめぐるアメリカの対応を参考にした」などと言いだしたが、誰もが思ったであろう。「嘘こけ」と。自分が作った専門家会議より100年前のアメリカか。

 安倍総理が全国一律休校要請についてたいした根拠をもっていなかったことは本人の言葉からも明らかだ。2月27日木曜日の夕方に「3月2日の月曜日から全国一律休校」とあまりに突然の要請を出した後、日本中が大騒ぎになって批判の嵐が吹き荒れたことに焦ったのか、翌28日金曜日の夕方になってしれっと休校について「各学校や地域で柔軟に判断いただきたい」などと言いだしたのである。もうぶれぶれ。だったら最初から全国一律とか言うなという話だし、要請以前から北海道や千葉県市川市のように各自治体はすでにそれぞれの判断で休校を実施している。なにより従来通り各自治体の判断の休校でいいのであれば、前日に“全国一律”の休校を要請した意味がないことになる。つまり、全国一律休校に根拠なんてなかったということだ。

 しかし、木曜の夕方に「月曜から休校」を要請された自治体は大慌てで金曜朝から対応に追われ、早急に方針を決定せざるを得ない。こうして、なし崩し的に全国各地で休校措置が決められてしまったのである。しかも、3月3日の衆院予算委員会で小池晃議員の質問に対して萩生田光一文科相が「全国一斉休校ではない」と述べたところ、あろうことか安倍総理は「前から言ってた」と大声でヤジ。マジでなんなの、この総理大臣。

 複数の報道によれば、この根拠のない思いつきの全国一律休校が要請された背景には、支持率低下や東京オリンピック開催が懸念されていることに焦りがあり、そこに側近の今井尚哉首相補佐官から「北海道の休校は道民に支持されている」という入れ知恵があったそうだ。なんのことはない、得意の“やってる感”を出すために決められた独断専行の政治的なパフォーマンスだったわけだ。これを突然、学校生活を奪われて悲しんでいる子供たちにどのように説明したらいいのだろう?

「これは感染の拡大防止になるかどうかよくわからないし、安倍総理が思いつきで決めてしまったものなんだけど、私たちはそれに従わなくてはいけない」

 などと正直に言えるだろうか。改めて言っておくが、全国一律休校が疫学的に感染拡大の抑制に有効だという根拠のある判断であれば、悲しく思いながらもそれを受け入れ、子どもに事情を説明することもできるだろう。しかし、残念ながら子どもに説明できる根拠らしい根拠はない。

 そして恐ろしいのは、科学的な根拠やエビデンスがなくても、安倍総理が決めたことだからみんなおとなしく従うべきだという空気がこの国に蔓延していることだ。

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