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安倍政権のわかりづらい「緊急経済対策」を解説! 安倍首相は“憲法”を順守せよ

めちゃくちゃわかりづらい給付を整理

 さて、「緊急支援フェーズ」では納税や社会保険料の支払いが難しくなった企業を対象に、26兆円規模で納税や社会保険料の支払いの1年猶予や、厳しい経営環境にある中小事業者等に対して、固定資産税と都市計画税の負担を、1年分に限り減免することが盛り込まれている。ここで、もっとも重要なのは国民の日々の暮らしを守っていくことだろう。安倍首相は記者会見で、「本当に厳しく収入が減少した人たちに直接給付がいくようにしていきたい」と述べ、「強い危機感のもとに、雇用と生活は断じて守り抜いていく」と決意を表明した。

 しかし、3月14日付の「新型コロナウイルスによる自営業者・フリーランス『休業補償』の具体的中身を検証」の指摘から多少は改善されたが、それでも「緊急支援フェーズ」における<雇用の維持と事業の継続>に盛り込まれた内容には、多くの問題が残っている。

 まずは、企業向けの対応策から見ていこう。

 企業向けには「持続化給付金」が実施される。前年同月と比べ「売り上げ」が5割以上減った月があれば対象になる。資本金が10億円未満の中小企業はすべて対象となり、最大200万円の現金を給付する。フリーランスを含めた個人事業主には100万円を上限に給付する。支給先は約130万事業者が想定され、予算は2兆3176億円。「売り上げ」は経費を差し引いたものではなく、売上高が対象で資金使途は自由だ。

 次に企業が従業員のために行う措置として、雇用調整助成金がある。この助成金は事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が雇用の維持を図るための休業手当に要した費用を助成する制度。助成率は大企業が3分の2(解雇等を行わない場合4分の3)、中小企業が5分の4(同10分の9)となっている。

 そして、家計向けには「生活支援臨時給付金」が実施される。対象は世帯単位で2~6月のいずれかの月収を新型コロナウイルスの発生前と比較し、①住民税が非課税となる水準まで減少した世帯②収入が半分以下となり、住民税非課税水準の2倍以下になった世帯が対象で、予算4兆206億円。

 住民税非課税水準が分かりづらいとの指摘から、最終的には世帯主(給与所得者)の月間収入が単身世帯で10万円、2人世帯で15万円、3人世帯で20万円、4人世帯で25万円となった。

 分かりづらいのは有り体に言って、資金使途が自由な「持続化給付金」を受け取り、従業員に給与を払う場合と、雇用助成金を使った場合、「生活支援臨時給付金」を受け取る場合では、どれが一番受取額が多くなるのかだろう。

 加えて、読売新聞が4月9日に報道した東京都内を中心にタクシー事業を展開する「ロイヤルリムジン」グループのように、「このまま業務を続けたり、休ませて休業手当を支払ったりするよりも、解雇して雇用保険の失業給付を受ける方が従業員にとってメリットが大きい」として、グループのほぼ全ての従業員にあたる約600人の解雇を決める企業まで出ている。

 さらに、「生活支援臨時給付金」ではさまざま問題がある。

 例えば、給付基準は世帯主の月間収入が単身世帯で10万円以下、2人世帯で15万円、3人世帯で20万円、4人世帯で25万円となったが、単身世帯で11万円、2人世帯で16万円、3人世帯で21万円、4人世帯で26万円の世帯は給付を受けられないことになる。このように、給付金を受けられる世帯と受けられない世帯の間に大きな不公平感が生じる。

 また、世帯主の月収を対象にしているが、現代のように家族のあり方が多様化し、働き方改革を進める中で、必ずしも世帯主の収入が最も多いとは限らない。共働きで妻の収入が多い世帯も多くある。世帯主を基準にするのは適切ではないのだ。世帯単位で給付を考えるのなら、世帯主所得ではなく世帯全体の所得をベースとするべきだ。

 これらの点を考えれば、企業の業績に関係する部分については無担保・無金利・無期限の政府系融資で支援し、個人の生活に関わる所得部分については、例えば18歳以上に一律の給付を行うことが、シンプルで簡単に実施できるのではないか?

 選挙の投票券では、18歳以上の個人を特定して郵送がなされているので、このシステムを使えばすぐにでも実施できるはずだ。

 その上で新型コロナウイルスによる影響がなく、収入が減少しない人については、新型コロナウイルスが終息後に所得税などを使って、回収すればいいのである。この時に所得水準や給与の減少の程度などにより、回収額を変えるなどにより、影響度合いに対応じた給付も可能になり、公平性も保たれるだろう。

 政府はIMF(国際通貨基金)への大規模な資金援助を行う予定だ。その費用は緊急経済対策の108億円から拠出されることになる。国民の生活を維持するための給付金はケチっても、自らの国際的な評価を高めるためには、国民の税金は惜しみなく使う。

憲法第25条には「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とし、「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と定められている。新型コロナウイルスのオーバーシュート(予測以上の爆発的な感染拡大)が目前に迫っている状況の中、安倍政権には憲法を遵守する義務がある。

鷲尾香一(経済ジャーナリスト)

経済ジャーナリスト。元ロイター通信の編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで様々な分野で取材・執筆活動を行っている。「Forsight」「現代ビジネス」「J-CAST」「週刊金曜日」「楽待不動産投資新聞」ほかで執筆中。著書に「企業買収―会社はこうして乗っ取られる 」(新潮OH!文庫)。

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最終更新:2020/04/14 12:12
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