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エッジ・オブ・小市民【11】

情報依存とネガティブ自家中毒~スマホを捨てよ、町に出よう

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 新型コロナウイルスの感染拡大によって日常はまさに一変してしまったわけだが、どのように日々をお過ごしだろう。きっと多くの人が心穏やかではいられないのではないかと思う。不安や恐怖を感じたり、時に怒りを覚えることもあるだろう。在宅勤務になって家にずっといることで、鬱屈した気分が溜まっているという人もいるはずだ。

 緊急事態宣言が延長されて、コロナ禍はどうやら長期化しそうな様相を呈している。未知のウイルスが蔓延し、政府の対応はどこまでも後手後手、経済は大きなダメージを受け、市民の間では相互監視が強まって“自粛警察”なんてものまで出てくる始末。なんだか絵に描いたようなディストピアだ。

 いったい、いつになったら終わるのか——と、誰もが感じてるだろうが、その終わりが見えず、いわば宙ぶらりんな状態が長く続いていて、それが不安や恐怖を増幅させる。そして、不安や恐怖を感じる人は安心を得たくて、情報を求める。在宅勤務をしているおかげで、ツイッターのタイムラインを数分おきに更新してしまったり、うっかり普段は見ないワイドショーなんかを見てしまったり、いつも以上に頻繁にニュースサイトの巡回をしてしまったり、情報収集にも思わず力が入ろうというものだ。しかし、それが悪循環になってはいないだろうか。かくいう筆者はコロナ騒動が始まってからというもの、完全にネットジャンキーと化し、毎日朝から晩までツイッターの更新をしてタイムラインをチェックし、その合間に仕事をしているような有様だ。そして、これが精神衛生上、非常によくない。不安や恐怖が解消されるどころか、むしろ腹が立つばかりだからだ。

 コロコロ変わるブレまくりの基本方針やお粗末な対応、お肉券&お魚券騒動、官僚の書いた原稿を読むだけの首相会見(しかも肝心なところで読み間違ったりする)、「かつてない規模の対策」第1発目として発表された布マスク(しかもまだ届かない。いらないけれど)、星野源の「うちで踊ろう」に強引にコラボしたおとぼけ動画の公開、火事場泥棒的な検察庁法改正推進——コトあるごとに感情を逆なでしてくる政府に「なんでそうなるんだよ」と呆れ果てつつ、腹も立つ。そんな不条理なデタラメもどこかで打ち止めになりそうなものだが、とにかくこの内閣、ネタに際限がない。上にざっと挙げたものだけではなく、冗談抜きでいちいち覚えていられないほど、今回はそのダメっぷりを見せつけられてきた。それがこちらの生活に直に影響あるようなネタだから、他人事として笑えるわけもなく、ただうっすらとした絶望と怒りにまみれた日々を過ごさざるを得なかったのである。なんと精神衛生的によくない政府であろうか。

 悪循環というのは、不安や恐怖に駆られて気がつくとSNSタイムラインの更新をしたり、ワイドショーを見たり、ニュースサイトを巡回したりを繰り返し、そこで政府の寝ぼけた対応に憤る意見や逆に擁護する意見を目の当たりにして、それが新たな怒りや不安や恐怖の種になっていく——そんな終わることない感情の堂々巡りのことだ。一度このパターンにハマると、そう簡単には抜け出せない。回し車に乗ったハムスターのようにひたすら回り続けるだけで、どこかゴールにたどり着くことない。情報依存がもたらす、終わりなきネガティブ感情の自家中毒。自粛している間、ずっとそんな感情の回し車に乗っていたら、それが原因でメンタルに不調をきたすこともあるだろう。

 SNSが浸透したことによって情報の拡散はより早くなり、大量の情報が氾濫している。そこにはデマや噂、フェイクニュースの類も飛び交っているし、そうした情報に乗せられてしまうことが、買い占めや自粛警察のような事態を招く一因にもなっている。こうした現象は“インフォデミック”ともいわれているそうだ。自分自身の精神衛生を守り、インフォデミックを防ぐ。そのために必要なことは多くの情報を求めるのではなく、むしろ逆に情報を求めすぎないことだろう。これは「無関心になれ」ということではなく、氾濫する情報に溺れるような状態にハマっているなら、まずはそこから脱することが必要だということだ。自分自身の健全な生活のためにも。

 カル・ニューポートの『デジタル・ミニマリスト』(早川書房)はコロナ禍発生以前の昨年10月に邦訳版が刊行された本だが、この緊急事態宣言下における情報デトックスに役立つ実用的な一冊だ。スマートフォンとSNSが作り出した“依存のしくみ”に抗って、本当に大切なことに集中するための思考法、実践法を紹介している本書のなかで、著者はスマートフォンからSNSアプリを削除することを勧め、そして情報の収集について次のように述べている。

 “ニュース速報専門の記者でもないかぎり、何か大きなできごとが発生した直後にインターネットにあふれかえる、不完全なくせに過剰で、ときには矛盾する情報を猛烈な勢いで摂取したところで、時間が無駄になるだけだ。ソーシャルメディアのおしゃべりやニュース速報サイトの情報よりも、定評のある新聞やオンライン雑誌に掲載される調査と吟味を重ねた報道のほうがはるかに質の高いものであることが多い。”

 なんとも耳の痛い言葉である。しかし、説得力も抜群だ。実際、有象無象のさまざまな意見や好み、コメンテーターの発言などに日々感情を振り回されることは有益どころか有害なだけだろう。SNSやニュースサイトにかじりついたり、ぼんやりとワンドショーを眺めたりすることより有益なことはいくらでもある。

 スマホを家に置いて、近所の人があまりいない通りをのんびり散歩してみることで得られることは、きっと同じ時間ツイッターのタイムラインを眺めているときよりも多い。実際、筆者もiPhoneからツイッターアプリを削除してみたのだが、それだけで情報依存がかなり改善されたという実感がある。散歩だけでなく、これを機に瞑想を試してみたり、ずっと積んだままの本を読んだり、ジョギングや筋トレ、ちょっと凝った料理なんか挑戦したりしてみてもいいかもしれない。今、ひたすら情報を集めることよりも、そういう時間を作ることのほうが、きっと日々の生活において大きな意味を持つはずだ。

いくつかのペンネームでウェブ・雑誌記事を書いている雑文業。得意分野は特になく、「広く浅く」がモットー。

ほったこう

最終更新:2020/05/15 21:00
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