本多圭の「芸能界・今昔・裏・レポート」

はるな愛の監督作『mama』で注目集める「吉野のママ」と高倉健の交友録

はるな愛公式ブログより

 タレントのはるな愛が、初めて監督を務めた映画『mama』が7月中旬から都内で公開されている。主演は、六本木のゲイバー『吉野』を営み、“伝説のゲイボーイ“と称される吉野寿雄さん(90)。“吉野のママ”と聞いて筆者が思い出したのは、故・高倉健さんの“夜明けのコーヒー“だった。

 1930年に東京で生また吉野ママは、戦後初のゲイバーとされる新橋の『やなぎ』を経て、33歳で、六本木にゲイバー『吉野』をオープン。店には、政財界人のみならず、石原裕次郎さんや美空ひばりさん、“ミスター・ジャイアンツ”こと長島茂雄さんら有名人が訪れたが、高倉健さんもその一人だった。

 人付き合いが苦手で酒も飲まない健さんは、客が帰った夜明けに一人、『吉野』のカウンターでコーヒーを飲むのが常だった。吉野ママは、1965年に公開された健さんの“網走番外地シリーズ『網走番外地 北海篇』に端役で出演しているが、健さんとはかなり昔からの付き合いだったようだ。

 筆者は「週刊ポスト」(小学館)の専属記者時代、義兄の紹介で、表参道の地下にあるスナック『C』に通っていた。同じフロアには女優・内田有紀の父親が経営するサパークラブやスナックがあった。その『C』のマスターがゲイだったことから、『吉野』を紹介され、筆者も何度か遊びに行った。

 ちょうどその頃、健さんは映画『幸福の黄色いハンカチ』(77年公開)、『遙かなる山の呼び声』(80年公開)、『駅 STATION』(81年公開)の3作で共演した女優・倍償千恵子との熱愛が噂されていた。理由は、深夜、健さんの車が倍償の自宅マンション近くにたびたび停めてあったからで、“通い夫”といった内容で報じられた。

 しかし実際は、健さんは、倍償の自宅マンションではなく、『吉野』に夜明けのコーヒーを飲みに来ていたのだ。取材記者らは、健さんが停めた車の前に『吉野』があることを知らなかったようだ。スクープを狙っていた女性週刊誌にとっては、笑えない話だ。

 その後、フリーになった筆者は、今から約20年前、ビートたけしとB&Bの島田洋七の3人で食事をして飲んだ後、「『吉野』に行こう」という話になって、深夜に訪問した。

 するとそこに、和田アキ子が、取り巻きのスタッフらと一緒にいた。たけしと洋七の顔を見ると、「たけし、洋七、こっちで一緒に飲もう」と呼び捨て。たけしが不快な表情を浮かべ、同席を拒むと、和田は執拗に洋七を呼び続けた。無視するわけにもいかず、洋七が一人で和田のテーブルに挨拶に行くと、和田は、「こいつ、頭を叩くと、舌をペロッと出す。おもろいやろ」と、何度も洋七の頭を叩いた。見かねた筆者が「人の頭を殴るもんじゃない!」と抗議すると、和田はビビって店を出ていった。後味の悪い出会いだった。

 いろいろな思い出がある『吉野』。我々は“吉野のおっかあ”と呼んでいたが、映画主演で今も健在。映画は今後、8月から9月にかけて大阪で公開される予定だというが、オールドゲイボーイのたくましさをしみじみ感じた。

本多圭(ジャーナリスト)

芸能取材歴40年以上、タブー知らずのベテランジャーナリスト。主な著書に『 スキャンダルにまみれた芸能界のトンデモない奴ら』など。

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最終更新:2020/07/28 06:30
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