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『鬼滅の刃』女性キャラクターたちの悲愴──胡蝶しのぶの“戦い方”が表す現代女性の生きづらさ

文=稲田豊史(いなだ・とよし)

──サブカルを中心に社会問題までを幅広く分析するライター・稲田豊史が、映画、小説、マンガ、アニメなどフィクションをテキストに、超絶難解な乙女心を分析。

【この記事は「月刊サイゾー」2020年6月号からの転載です。以下、既刊の単行本のネタバレを含みますのでご注意ください】

『鬼滅の刃』女性キャラクターたちの悲愴──胡蝶しのぶの戦い方が表す現代女性の生きづらさの画像1
女性キャラクターの活躍も魅力的な『鬼滅の刃』(集英社)

 この出版不況下、単行本の売り切れ続出が報じられるほど盛り上がっているのが、2016年に連載が始まった、『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴・著「週刊少年ジャンプ」)だ。「オリコン年間コミックランキング 2019」では売り上げ1205万8000部(!)で第1位。19年にテレビアニメ化され、今年10月には映画版も公開された。

 舞台は大正時代の日本。炭焼きの少年・竈門炭治郎が家族を惨殺した「鬼」たちと戦うため、「鬼殺隊」に入隊して鍛錬を積んでいく。和モノ伝奇ホラー+必殺技系剣戟モノだが、「ジャンプ」をとっくに卒業したサイゾー世代へ雑に説明するなら、『ジョジョの奇妙な冒険』と『るろうに剣心』と『忍空』と『HUNTER×HUNTER』のいいとこ取り、といった趣である。

 挙げた作品からもわかるように、一見して正統派少年マンガに見える本作だが、なかなかのオトメゴコロ案件だ。鬼殺隊の隊員や鬼化した人間たちは、皆なんらか訳ありの重たい過去を背負っており、それが鬼と戦う、もしくは鬼になる理由と密接に結びついているが、なかでも女性キャラの置かれている境遇が、なんというか実に、人生ハードモード。少年誌連載作品ながら、「虐げられた女性たち」からの社会告発的な色が強いのだ。

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甘露寺蜜璃が表紙の14巻(集英社)

 例えば鬼殺隊の甘露寺蜜璃が入隊した理由は婚活のため。入隊前は「変な髪の色、異常な筋力、異常に大食」であるがゆえ見合いに失敗、相手からは「そのおかしな頭の色も子どもに遺伝したらと思うとゾッとします」と言われたため、髪を黒く染めて食事を控え、弱いふりをしていた。

 しかし本当の自分を出せないことに苦しんだ挙げ句、自分を受け入れてくれる鬼殺隊に入ったのだ。「ありのままに生きたい」件は、さながら『アナと雪の女王』のエルサ。蜜璃もエルサも社会から押し付けられる一様な「女子らしさ」の呪縛の被害者だ。

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栗花落カナヲが表紙の18巻(集英社)

 同じく鬼殺隊で炭治郎と同期の栗花落カナヲは幼少期、「いてもいなくてもいい存在」だったので親から名前すらつけられず、貧困のため人買いに売られた。そのため成長後も「あらゆることがどうでもよく、自分の意思では何も決められない」パーソナリティが形成されてしまう。指示されたこと以外はコイントスで決める彼女は、逃れられないDVやネグレクトを受け続けた子供たちが陥る「学習性無力感」に近い症状が出てしまっている。

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胡蝶しのぶが表紙の6巻(集英社)

 鬼殺隊でカナヲを指導する胡蝶しのぶは、生まれつき体格に恵まれていないため鬼を殺傷すべく首を斬り落とすことができない。そのため毒薬を剣の刃に塗って戦うという涙ぐましい努力を続けている。優等生の姉が鬼に殺されており鬼を憎んでいるが、生前の姉が「鬼と仲良くしたい」と願っていたため激しく葛藤し、それを隠すためにスマイルを絶やさない。

 そんな彼女は炭治郎曰く「ずっと笑顔」だけど「いつも怒ってる匂い」がする。抑圧された女性の典型だ。戦いでは、長い年月をかけて毒を取り込んだ自分の体を鬼に食わせることで絶命させるという壮絶な最期を遂げた。“力”を持たない女性が社会を動かすには、“自爆”しかない。ミソジニー男性からの二次被害を覚悟した捨て身の#MeTooにも通じる悲しさがある。

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