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宮下かな子と観るキネマのスタアたち第5話

“女性映画の名手”成瀬巳喜男の監督作『浮雲』 敗戦に対する声なき怒りをメロドラマで表現

文=宮下かな子(みやした・かなこ)

敗戦への怒りを、メロドラマで表現?

 そうして時代背景を前提として映画を見ると、ゆき子が富岡を咎めることが、富岡への怒りの感情だけではなく、もっと広い、敗戦し変化した世の中に向けての怒りでもあるのではないかと思えてきて……! 富岡が口をつぐんでいるのも、その怒りに対してどうすることもできない現実への諦めを意味しているように感じられるんです!

 ゆき子と富岡の会話で、
ゆき子「いやにしけてるじゃないの」
富岡「嫌な言葉を使うなぁ」
ゆき子「そう? 1人でいるといろんな言葉を覚えちゃうのよ」
というやりとりがあるんですが、これが、ゆき子の投げかける言葉すべ全てなのではないかなと思います。この時代が、ゆき子の発言を作っているんです。

 そんな終始不満を口にしているゆき子ですが、相手の言葉を受けてほんの少しだけ、心で感じた素直な心情を、表情に出す瞬間があるんですよ。

 例えば、昔話をしていて富岡に「君と僕の間が昔どおりの激しさに戻るものではないし」と言われた時。一瞬ムッとして悲しげな表情をするのですが、その後、富岡には「いいわよ。私も自分の生活は自分でなんとかするから。」と、いつもの強気な発言をするんです。

 そういう一瞬の素の心情を垣間見た時、私は彼女をとても愛おしく思いました。台詞で言語化されていない心情の表現が、高峰さん本当に素晴らしくて、こういうちょっとしたところで、視聴者を魅了させているのだと思います。

 どんなに好感度が悪くても、嫌なやつだとしても、必ず人って良い面があるじゃないですか。そういう瞬間を作品の中で見せ、視聴者の心の隙間に入れるような役者さんは、やっぱり素敵だなぁと思います。

 高峰さんは当時、結婚が決まっていたタイミングでもあり、「この作品で私は役者をやめるつもりだったから、やる気でやりましたよ」と仰っています。役作りで富岡役の森雅之さんと一緒に食事制限もしていたらしく、録音部さんに驚かれるほど2人でお腹を鳴らしていたとか。

 精神的にも体力的にも、相当難しい役だったんじゃないかと思いますが、本当に圧巻の演技力です。
 そしてもうひとつ印象的なのが、女性たちの目線の配り方が繊細に描かれているところ。

 ゆき子のほかにも、富岡と関係のある女性が次々と現れるのですが、例えば冒頭、仏印で富岡達に食事を運ぶ現地の女性の、富岡とゆき子を見る鋭い視線が、富岡との関係性を物語っていたり。ゆき子が富岡の家を訪ねた際に顔を出す、富岡の妻と母親の、疑いながらも不安が見える目線配りだったり。旅先で出会った岡田茉莉子さん演じるおせいとの、惹かれ合う2人の目線のやりとりだったり。

 富岡と関係性のあるこれらの女性たちはもちろんですが、ゆき子が富岡の移転先を訪れた際、その様子を伺う近隣住民の女性の目線配りまで、成瀬監督は丁寧に見せているんです! 言葉や態度にせずとも、人をちゃんと見て情報収集している女という生き物が見事に表現されていて、こういう描写が、女性映画の名手と称されるところなのかなあと思います。

 ということで今回は 「浮雲」をみてきましたが、2人の関係性に潜む戦後の実態であったり、言葉とは裏腹のゆき子の思いであったり、真実は見えないところにあることに気付かされた作品でした。

 そして、成瀬監督の女性を繊細に描く演出と、1人の男性に執着し、時代に背を向けて生きた女性を演じる高峰秀子さんの演技力は本当に圧巻です!

 ……ですがやっぱり私は、浮雲ような男性には魅力は感じません。どうか皆さんも、浮雲のような男性に惹かれないこと、そして浮雲的男性になることがありませんように!(笑)

宮下かな子(みやした・かなこ)

宮下かな子(みやした・かなこ)

宮下かな子(みやした・かなこ) 1995年7月14日、福島県生まれ。舞台『転校生』オーディションで抜擢され、その後も映画『ブレイブ -群青戦記-』(東宝)やドラマ『最愛』(TBS)、日本民放連盟賞ドラマ『チャンネルはそのまま!』(HTB)などに出演。現在「SOMPOケア」、「ソニー銀行」、「雪印メグミルク プルーンFe」、「コーエーテクモゲームス 三國志 覇道 」のCMに出演中。趣味は読書、イラストを描くこと。Twitter〈@miyashitakanako〉Instagram〈miya_kanako〉

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【アミューズWEBサイト公式プロフィール】

最終更新:2021/03/22 12:53
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