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『チコちゃんに叱られる!』火星人=タコ説の由来で思い出す、とんねるずの木梨憲武追悼ドッキリ

文=寺西ジャジューカ(てらにし・じゃじゅーか)

『チコちゃんに叱られる!』火星人=タコ説の由来で思い出す、とんねるずの木梨憲武追悼ドッキリの画像1
『チコちゃんに叱られる!』(NHK)

 2月5日放送『チコちゃんに叱られる!』(NHK)のゲストは、今回で5回目の登場となる若槻千夏と、初登場の関根勤。娘の関根麻里はすでに2回出演しているので、関根家としては通算3回目の登場だ。チコちゃんは関根勤とのことを「ラビット関根」と呼ばないんだな……。

火星人=タコ説が広まったきっかけは今ならBPO案件?

 この日2つ目のテーマに入る前に、チコちゃんは回答者3人に火星人のイメージを描かせた。すると、見事に全員の絵がタコに似ているのだ。というわけで、チコちゃんが発表したテーマは「なんで火星人はタコなの?」である。そして、正解は「ウッカリしてウッカリしてドッキリしたから」であった。なんだ、それは……。

 詳しく教えてくれるのは、英米文学に詳しい慶応義塾大学の巽孝之先生だ。曰く、発端はヨーロッパで火星が注目されたことだそう。ここで始まったのは、NHチコ教養講座「火星人はなぜタコなのか?」なるコーナーだ。ホワイトボードを挟んで登場したのは巽先生とNHKの中山果奈アナウンサー。……というかこれ、完全に『植物に学ぶ生存戦略 話す人・山田孝之』(Eテレ)のパロディじゃない! また、絶妙な番組をパロってきたな……。しかし、どうしてアシスタントは『生存戦略』の林田理沙アナではなく、中山アナなのか?

 巽先生の解説が始まった。1877年にイタリアの天文学者、ジョバンニ・スキアパレッリは望遠鏡で火星の表面に細い模様がたくさんあるのを発見し、その絵を描いたそう。スキアパレッリは、筋のようなこの模様をイタリア語で「溝」を意味する「Canali(カナーリ)」と呼び、論文を発表した。その後、ただの溝を意味する「Canali」をウッカリ誤訳してしまった翻訳者が現れた。フランスの翻訳者であり天文学者でもあるカミーユ・フラマリオンだ。スキアパレッリの論文をフランス語に翻訳する際、火星の溝とイタリアのベネチアの運河が似ていると思い、単に溝を意味する「Canali」の訳を「Canal(カナル)」と記したのだ。「Canal」はフランス語で「人工的に作られる運河」を意味する。つまり、イタリア語の溝を意味する「Canali」からフランス語の運河を意味する「Canal」に誤訳してしまったのだ。そして、「火星に人工的に作られた運河がある」→「火星人がいる」ということになってしまったということ。これは、ウッカリしすぎだな……。あと、中山アナが起用されたのはCanali→Canal→(中山)果奈、が理由ということもわかった。

 その後、誤訳された論文はアメリカ大陸へ渡る。この論文を読んだのはアメリカ人の天文学者、パーシバル・ローウェルだ。彼が2人目のウッカリさんである。資産家でもあったローウェルは「なんだって! 火星に運河!? 火星人を研究しよう」と決意。1894年、大富豪だったローウェルは私財を投げうってアリゾナ州に火星の運河を観測するため天文台を作り、観測を始めたのだ。その後、ローウェルは約20年間にわたって火星を観測し、その溝を運河と信じ込んでスケッチした。望遠鏡で撮影した火星の写真とローウェルのスケッチを比較すると、望遠鏡の写真では不鮮明な溝が、スケッチではハッキリとした運河として描かれているのだ。彼の信じたい気持ちはどんどんエスカレートし、遂には運河に名前まで付けてしまう。さらに、ローウェルは観測を続けるうちにこう考えるようになった。「これほど複雑な運河を造れるとは! 火星にはきっと、高度な知的生命体がいるに違いない」。勝手なイメージを膨らませ、ローウェルは火星人の存在を主張した。「地球から見えるほど巨大な運河を造れるのだから、火星人は脳が発達して頭が大きいはずだ」「重力は地球の1/3ほどだから脚は細いはずだ」という想像でもしたのか? 事実、彼はこう記している。「able to rise above its bodily limitations to amelioration of the conditions through exercise of mind.(火星人は肉体の限界を超えるほどの頭脳を持つはずだ)」「would take on a character akin to the grotesque.(そして人間とはちがい かなりグロテスクであろう)」。このようにウッカリがウッカリを呼び、人々は火星人は頭が大きくグロテスクなものと思い込んでいくのである。つまり、溝→運河→火星人という発想の飛躍だ。

 そのローウェルが書いた火星の本を読んだのが、イギリスのSF作家であるH.G.ウェルズ。1898年、彼はローウェルの本をヒントに後に大ヒットとなるSF小説『宇宙戦争(The War of the Worlds)』を出版した。そしてそのとき、火星人はこういう姿と思い込ませるようなイラストが本に描かれていた。これがまた、タコそっくりなのだ。確かに、外国人はタコを見てグロテスクと思うらしいしな……。

 この小説は意外な方法で全米に広まった。それは、ドッキリ。1938年10月30日のハロウィン前夜、アメリカで小説『宇宙戦争』がラジオ番組として放送されたのだ。音楽が放送される中、緊急のニュース速報が飛び込んだ。

「音楽の途中ですが、ここで臨時ニュースをお伝えします。午後8時50分、正体不明の巨大な光る物体がニュージャージー州の農場に落下しました。怪物が 這い出てきました! どんどん出てきます! タコのような姿です! 人々が襲われて燃えている! こちらにやってくるぞ!」

 ラジオを聴いていた人々は「本当に火星人が攻めてきた!」と信じ込み、大きなパニックが巻き起こってしまう。何しろ、ニュースを信じ込んだ人は全米で100万人。避難しようと家を飛び出した人々の車が大渋滞になったり、給水塔を火星人のロボットだと思って発砲した人もいた程だ。こうして、『宇宙戦争』のラジオドラマは全米を揺るがすほどの大事件へ発展する。今なら絶対にできない放送だし、BPO案件になってしまうだろう。かつて、『とんねるずのみなさんのおかげです』(フジテレビ系)で放送された木梨憲武追悼特番ドッキリを思い出した。あれも苦情が殺到したっていうしな……。

 ところで、火星人=タコというイメージは日本にはどのように広まったのか? 実は、SF小説『宇宙戦争』は日本にも輸入され、昭和に入ってからは火星人が襲来するSF小説が少年誌に多数連載されたのだ。こうして、子どもたちはタコの姿をした火星人に心奪われた。何しろ、手塚治虫のマンガに登場した火星人もタコの姿だったのだ。結果、日本人にも火星人=タコのイメージが浸透していく。

 要するに、こういうことだ。伝言ゲームで火星のイメージが間違った形ででき上がり、それが飛躍して火星人はタコのような姿になってしまったということ。非常に面白い着地点だが、それにしては正解が「ウッカリしてウッカリしてドッキリしたから」である。そんなの、わかるわけないよ!

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