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血みどろの夫婦喧嘩! なぜ女性は、泣き叫ぶのか? 映画『レボリューショナリー・ロード』

文=稲田豊史(いなだ・とよし)

──サブカルを中心に社会問題までを幅広く分析するライター・稲田豊史が原作を務めるマンガ『ぼくたちの離婚』(集英社)が、3月18日に刊行される。これを記念して「月刊誌サイゾー」で連載中の「稲田豊史のオトメゴコロ乱読修行」から、「結婚・離婚」にまつわるテーマを選りすぐって無料公開します!

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『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』(パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン)

※本文中にはネタバレがあります。(サイゾー2017年6月号より転載)

『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』のDVDのジャケットには、タバコの警告表示よろしく「パートナーとの関係を破壊するおそれがあります」と大きく書いておくべきだ。

 とにかく身も蓋もない話である。舞台は1955年のアメリカ。郊外の新興住宅地に住む若い夫婦の関係がメタクソに破壊されていく惨状が、2時間かけて執拗かつ無慈悲に描かれる。夫婦やカップルで一緒に観たが最後、自分たちの関係性に横たわる「未解決問題」をひとつずつ丁寧に掘り起こされて眼前に突きつけられること必至なので、心の底からオススメしない。

 注目したいのは、妻のエイプリル(ケイト・ウィンスレット)だ。彼女はかつて女優志望で、夫のフランク(レオナルド・ディカプリオ)とともに、「芸術に通じ、感受性が強く、先進的で聡明」であることを自負する自意識の高い女性だが、現実はことごとく彼女の満足するものではなかった。

 そもそも、一軒家を購入して越してきた理由は、期せずして“授かって”しまい、家族が増えたから。平たく言えば「ヘタを打った」のだ。しかも、「望んだ妊娠だったと証明したくて2人目を出産」(エイプリル・談)というから、目も当てられない。

「レボリューショナリー・ロード」とは、彼らの住む庭付き一軒家が面している、道路の名前。直訳すれば「革命的な通り」だが、写真家・大山顕氏が言うところの“マンションポエム”風に形容するなら、「特別な家族にだけ歩むことを許された、革新という名の路」といったところか。郊外の造成物件周辺によく見られる、ドリーミーなキラキラネームの類いである。これぞ、「郊外的文化」をもっともバカにするタイプの人間が、経済的理由で「郊外」の一軒家に住まざるを得ない屈辱そのもの。現代日本にも通じる、自称都会人の自尊心問題というやつである。

 こうしてエイプリルは「郊外の退屈な専業主婦」になることを余儀なくされるが、「芸術を解する特別な人間」であると承認されたいばかりに、アマチュア女優として市民劇団の舞台に立つ。が、屈辱的な不評を買って、ブライドがズタズタに引き裂かれる。「大学時代から付き合っていた彼と予定外の授かり婚→しかし起業への夢が捨てきれず、子育てが一段落したところで手作りアクセサリーの販売サイトをオープン→月の売り上げがマックス2000円どまり→しかも顧客の大半は、ママ友と学生時代の友人と両親」──。そんな現代的香ばしさを連想させるのは、気のせいか。

 思案したエイプリルは人生の起死回生を図るべく、「パリに移住して、先進的・文化的・人間的な暮らしをしよう(意訳)」とフランクに提案する。パリでは彼女がバリバリ働き、フランクは高等遊民的に芸術を追求しながら専業主夫になればいい、というのだ。 「移住」は、都会で詰んだ現代日本の働き独女にとっても最後の切り札。「ここではないどこか」に「何かあるかもしれない」は、時代を超えて甘い蜜となりうる。フランクも提案に乗り、移住の準備を始める。

 ところが、とある状況の急変によって、フランクは移住に後ろ向きになる。しかし承認欲求が満たされない毎日を送るエイプリルは、どうにかして現状を打破したい。「ここではないどこか」で輝きたい。多少の生活リスクを冒してでも「パリで働くこと」は、最後の切り札だったのだ。激しく抵抗し、フランクに食い下がるが、フランクはどうしても首を縦に振らない。こうしてエイプリルは、完全に詰む。

 ここから始まる夫婦喧嘩はまさに地獄絵図だ。フランクは取り乱すエイプリルを精神病患者扱いして罵り、子どもへの愛情を疑い、最初の子は本当は堕ろしてほしかったとぶちまけ、ついでに自分の浮気を告白する。一方のエイプリルは泣き叫び、喚き立て、私に触ると大声を出すと宣言し、奇声を上げてフランクを怯えさせ、疲労困憊させる。浮気の告白にも動じず、自分を嫉妬させるために言ったのねと見抜いて軽蔑し、「愛してないわ。憎いだけ」と言い放つ。

 描かれる夫婦喧嘩の原因と絶望的顛末が、特に既婚者にとってはリアルすぎてシャレにならない。知り合いのバツイチ男性など、「離婚係争中を思い出して、動悸が止まらなくなった」そうだ。

 そのリアリティに拍車をかけているのが、エイプリルの唐突かつ不気味な態度豹変だ。ひとしきり嗚咽し、鬼の形相でフランクを人間性ごとディスったにもかかわらず、状況がどうしようもないと悟った瞬間、凪のような平静を取り戻し、フランクに優しく接する。既婚者男性なら特にわかっていただけるだろう。完全に「妻あるある」だ。あれには心の底から戦慄する。

 そう、世の多くの女は、聡明か聡明でないか、エイプリルのような自分探し女子か否かにかかわらず、突然狂ったように嗚咽して怒号を発する。かと思えば、翌日にはすべてを悟ったような表情で、穏やかな笑みを浮かべてくる。問題になっている状況が変化も解決もしていないのに。

 なぜ彼女たちは、そこまで情緒の振れ幅が大きいのだろうか。それは彼女たちが、視界に入る「地獄」のすべてに焦点を合わせたうえで、日々の生活を送っているからだ。

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