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日本のセックスレス率は47%超──マンガ『1122』が提案するソリューションとしての不倫

文=稲田豊史(いなだ・とよし)

──サブカルを中心に社会問題までを幅広く分析するライター・稲田豊史が原作を務めるマンガ『ぼくたちの離婚』(集英社)が、3月18日に刊行される。これを記念して「月刊誌サイゾー」で連載中の「稲田豊史のオトメゴコロ乱読修行」から、「結婚・離婚」にまつわるテーマを選りすぐって無料公開します!

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『1122』(著: 渡辺ペコ/講談社)

※「月刊サイゾー」2019年9月号より転載

 日本の夫婦の47.2%がセックスレス(過去1カ月以上セックスをしていない状態)だそうだ(16年、一般社団法人日本家族計画協会調べ)。夫からすれば「勃たないんだからしょうがないじゃん、以上」案件ではあるが、妻が「解決したい」と望めば無視するわけにはいかない。そこで参考としたいのが、「モーニング・ツー」(講談社)連載のコミック『1122(いいふうふ)』(著: 渡辺ペコ)である。

 主人公は35歳のウェブデザイナー一子(いちこ)と、文具メーカー勤務の夫・二也(おとやん)。結婚7年目で子供なし、2年ほどセックスレスの夫婦だが、彼らは「婚外恋愛許可制」を敷いている。なんと、おとやんの不倫をいちこが認めているのだ。しかも、発案はいちこである。

 きっかけは、おとやんのセックスの求めを手ひどく拒否したいちこが後ろめたさを感じ、その後おとやんに好きな人ができたこと。話し合いの末、おとやんは月イチのデート、および相手と肉体関係を持つことをいちこに許された。

 セックスしたい夫と、したくない妻。しかし仲は悪くない。そのソリューションとしての、婚姻関係を結んだままの公認不倫制。実に合理的で先進的。「あたらしい夫婦のかたち」というやつだ。

 ところが、ある時いちこが不倫相手に嫉妬し、おとやんとのセックスを願うようになる。しかし、おとやんは今さらいちこにムラムラしない。努力はしてみるものの、勃たない。鬱屈したいちこは女性用風俗の門を叩き、大学生のホストから久々のときめきと性的な満足を得る。と同時に、おとやんが不倫相手とトラブったことで、改めて夫婦の絆が強まりかける。

 しかし今度は、いちこが“買春”している事実を知ったおとやんが、いちこに不信感を募らせる。不倫と違い、いちこは「快楽を金で買っているから」というのがおとやんの言い分。ここまでが、既刊5巻の展開である。

 ポイントは、彼らの夫婦仲そのものは基本的に良好だということだ。相手を尊重し、長所をたびたび再確認しあう。その上で、自分の感情に折り合いがつけられないことに悩み、夫婦関係をどうにか維持できないか真面目に考える。しかし、それでも答えが出ない。セックスレスという“報い”を受けるべき責が、2人のどこにも見当たらないのだ。これは根が深い。

 実は本作最大の論点は、セックスレスそのものではない。「結婚相手からは得られない喜びを、結婚相手以外から手配することは、許されるのか?」という根源的かつ哲学的な命題だ。

『1122』において「喜び」とはセックスを指すが、人間にとって生きる上で必要な「喜び」は、セックス以外にもたくさんある。例えば、結婚相手とは共有・交歓できそうもないマニアックな趣味。リテラシー差が激しすぎて話題にできない、特定分野の学問や政治の議論。スポーツや音楽体験も然り。結婚相手との会話や共有体験からは得られないレベルの知的興奮や大爆笑や芸術的恍惚や高揚感。それらを結婚相手以外の友人や同好の士から得ようとすることは、誰だってあるだろう。その中にセックスが含まれていて、なぜいけないのか? ……というのが、本作の問題提起だ。

 いちこは友人にこう言っている。「夫婦だろうが恋人だろうが、性の部分はそれぞれ個人的なものなので、共有できるのはその一部」「わたしの個人の性領域をつまびらかに(おとやんに)知られるのは、すごく恥ずかしいんだよね」「妻だからっておとやんの性を掌握できるっていうのは、なんか違うっぽい」。

 筆者はここで、BL同人誌とBLゲームを嗜む既婚の友人女性を思い出した。「私の趣味は夫に内緒だが、夫との信頼関係が揺らいでいるとは思わない。どうせ夫は私のBL趣味を受け止めるだけのキャパもリテラシーもないのだから、受け皿として期待できない」。そう彼女は言った。納得だ。

 夫婦関係を良好に保つため、「妻に愚痴を言わない」「仕事の話を家庭に持ち込まない」という人もいる。これは裏を返せば、「妻以上に快適に愚痴を言える人」「妻以上に仕事の話を理解してくれる人」がほかにいるということだ。彼らは当該分野において、結婚相手以上の“適任者”を意識的に確保している(大抵は、家で愚痴や仕事話をして手痛いダメージを受けた上での「学び」からそうしている)。

 ならば、結婚相手以外に“性の適任者”がいてもいいはず、という話である。

 人生を健やかに運営するために「外注」は欠かせない。それは企業の正社員を極力減らし専門業務をすべて外部のプロにプロジェクト単位で発注することにも似ている。合理化と効率化。なにもすべての業務を自分ひとりで請け負う必要はない。限られたマンパワーは得意分野にだけ注ぐべし。

 だからこそ、いちこは当初、自分が請け負うにあたっては不得意と判断したセックスという専門業務を、夫婦という会社組織の外に「外注」した。にもかかわらず、外注を進めた当の本人が、外注したという事実に耐えられなくなってしまう。外注先(不倫相手)への嫉妬によって。

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