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“特権”に気付いてゲタを脱げるか?「生きづらさ」解体から批判まで…「男性学」ブックガイド

溜まっていたものが一気に噴き出した10年代後半

 2017年、映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインのセクハラ告発が起きる。「#MeToo」のハッシュタグは世界中に広まり、女性たちが声を上げ始めた。日本のフェミニズムを盛り上げたのが『82年生まれ、キム・ジヨン』(チョ・ナムジュ、斎藤真理子訳/筑摩書房/18年)、『私たちにはことばが必要だ』(イ・ミンギョン すんみ・ 小山内園子訳/タバブックス/18年)などの韓国フェミニズム作品だったように、男性学においても『説教したがる男たち』(レベッカ・ソルニット、ハーン小路恭子訳/左右社)『男らしさの終焉』(グレイソン・ペリー/訳:小磯洋光/フィルムアート社)といった優れた海外エッセイが日本国内で刊行され、男性学を照射し始める。

 イギリスのアーティスト/司会者であるグレイソン・ペリーの『男らしさの終焉』は、辛辣なジョークやウィットの効いた言い回しを用いながら、鋭さをもって日常にあるジェンダーの非対称性を見抜いている。例えば、公共の場の女子トイレはなぜいつも混んでいるのか。身体の構造上、女性のほうがトイレに時間がかかるのは明白なのに、いまだにトイレの数が男女同数だからだ。

「男性はずっと権力の座についていて、自分たちの思想を正確に反映する世界を築いてきたので、社会という名の織物には、男性性が織り込まれているのである。(中略)ずっと昔から男性によってすべてが決定されてきたせいで、『きみ、それが物事というものなのさ』と言われてしまうと反論できない」(同書より)

 政治や会社組織の中だけに男性支配社会があるわけではない。あらゆるものがその上に成り立っており、それは嗜好の問題に思えるようなファッションやスポーツ、カルチャーといった領域も例外ではない──自身の子ども時代から回想しながら著者はそう指摘し続ける。

 これに続く形で、国内でも男性学の領域に立つエッセイが立て続けに生まれていく。『さよなら、男社会』(尹 雄大/亜紀書房)、『さよなら、俺たち』(清田隆之<桃山商事>/スタンド・ブックス)がその筆頭に挙げられるだろう。『感じない男』以降、男性が当事者として語る本がさほど続かなかった中で、この2冊は社会考察と過去の出来事を絡めながら、「自分語り」を織り込んでいる。

 例えば、『さよなら、男社会』では、小学生の頃に出会ったガキ大将とその子分の関係に、男性が惹かれる「権力」の原型を見たと語る。子分たちはガキ大将に怯えつつも、彼同様に周囲に対して威圧的な態度をとっており、著者の尹はその心の動きを次のように解き明かす。

「権力者に承認されたがる下位の立場の者は、このシステムは弱者が一方的に支配されるだけで終わらないカラクリなのだとわかっている。だからこそ、震え上がりながらもそこに進んで参加したがる。そうすれば権力者のような力はまだないが、人を威圧する権力の分け前に与ることはできるからだ」(同書より)

 現在の日本の利権政治や、社会の至るところにあるハラスメントを見て、「そんなの小学生の話だ」と笑える人がどれほどいるだろうか。格差やゆがみが目立つ現代だからこそ、特権を持つ男性の実体験に基づいた社会考察が評価されるのかもしれない。

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