日刊サイゾー トップ  > 女性の強さで人間の生を描いた 相米慎二『あ、春』
宮下かな子と観るキネマのスタアたち第7話

女性の強さで最大限に最大限の“生”の肯定を描く… 相米慎二監督の異色作『あ、春』

女性の強さで最大限に最大限の生の肯定を描く… 相米慎二監督の異色作『あ、春』の画像1
イラスト/宮下かな子

 こんばんは! 宮下かな子です。陽射しが少しずつ暖かくなってきて、春の訪れを感じる今日この頃。あっという間に3月ですね。

 血液検査の結果だと、私、結構な花粉症なのですが、過敏になったらもう止まらなくなりそうなので、毎年「気にしない」をモットーにこの季節過ごしております。鼻水が出ても、目が痒くても、気にしない気にしない。繊細にいなくてはいけないこともあると思いますが、そういうタフさも、生きていく上で案外大事なのかもしれないな、なんて思ったりしています。ああ、春が待ち遠しい~!

 そんな今の季節にぴったりな映画、相米慎二監督の『あ、春』(1998年松竹)を、今回ご紹介いたします。

 先月、相米慎二監督没後20周記念に、渋谷のユーロスペースで上映イベントをやっていたんですよ!「なんと素敵な企画だろう……!」と興奮してずっとタイミングを見計らっていたのですが、お目当てのトークショー付き上映は売り切れてしまったり、スケジュールが合わなかったりで結局行けず、お家で一人相米慎二映画祭を開催することとなりました。相米慎二監督の作品、大好きなんです。今回は、キネマ旬報ベストテン1位を獲得した『あ、春』の魅力を語っていこうと思います!

〈あらすじ〉エリートサラリーマン韮崎綋(佐藤浩市)の前に、母親に「死んだ」と聞かされていた父親•笹一(山崎努)が突如現れる。妻と義母、息子との穏やかな暮らしに、その父親が居着いてしまい……。

 相米慎二の異色の作品とも言われている今作。相米慎二らしい尖った奇抜さ、癖の強さはあまりないのですが、長回しの手法も健全、個性的な登場人物たちが肩を並べていてとてもユーモラスなのです。死んだと思っていた父親が現れるというストーリー展開もなかなかに波瀾万丈なのですが、節分から端午の節句に至るまでの季節感を入れ込み、一つの家族の姿を、季節の移り変わりと共にゆるやかに、温かみを持って描いています。

 タイトルの『あ、春』の「あ、」の気の抜けたような感じがまた良くて。風の温度だったり、日差しの暖かさだったり、春っていつもこんなふうに「あ、」って感じでやってくる。この、いつの間にか傍にいるようなぬくもり、この物語にぴったりなタイトルだなぁと感じます。

 主人公、韮崎綋を演じるのは佐藤浩市さん。20年以上の前に公開した作品になるので、当時30代後半。貫禄ある現在の風貌とはまた違った、少し青々しいエリートサラリーマン姿が拝見できます。

 そして、突如現る自由気ままな父親役に、山崎努さん。家路につく綋の前に、浮浪者のような汚れた身なりで話しかける登場シーンからもう最高! ニカニカと笑みを浮かべながら話す姿は、人懐っこい愛嬌があって、人たらしで生きてきたこの男の人間性が感じられます。今後、この韮崎家を台風にように巻き込んでいくんだな、という絶大な存在感があり、登場シーンからワクワクさせられるのです!

 ほのぼのとした空気の流れから、この笹一の登場で一気に波風立つ、この溢れんばかりの存在感は、山崎努さんだからこそ、醸し出せるものなのではないかと感じます。身勝手なのにどうも憎めない、そんな破茶滅茶迷惑男が、溝ができた韮崎家を救いあげてくれる救世主となるのです。

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