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8歳から内職、経験した職種は100種類… 作家「爪切男」誕生までを本人が語る! 風俗、ハナクソ、宙を舞う炒飯!?

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 デビュー作『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)で自分の愛した女性たちを描き、ドラマ化されるほど人気を博した今注目の作家・爪切男。3月19日に発売された最新作『働きアリに花束を』(扶桑社)では、自らの仕事や家族にまつわる悲哀と笑いをエッセイに昇華させている。彼の作品には、自慰や風俗など下半身の話も多く登場するが、読者を決して不快にさせないばかりか、心温まる不思議な魅力がある。そんな男の正体に迫る直撃インタビュー。

過去の壮絶体験に促されて

――なぜ、本書では“働く”をテーマに選んだのでしょうか?

爪切男(以下、爪) 実は5年ほど前、この本に出てくる「炒飯大回転」の話をツイッターでつぶやくと、俗にいう“バズった”んですね。自分としては、仕事に関するエピソードがこんなにウケるのかとビックリしちゃって。

――「炒飯大回転」とは、爪さんが大学時代にちゃんぽんチェーン店でバイトしていた時のご経験ですね。全自動の炒飯調理器が暴走して、先輩バイト・牧さんの賄い炒飯を宙に向かって盛大にバラ撒きはじめたという。

 現状を把握した私は、「コンセント抜きますか?」と指示を仰ぐ。
「滅多に見られるもんじゃないから、もうちょっと見てようよ」
 牧さんは笑いながら言った。
「牧さん。ふざけてるんですか?」
「そうだよ、ふざけてる。でも、今はふざけていいときだと思うよ」
「ふざけちゃダメなときですよ」
「ほら、すんごい回ってるよ。こういうのを見られるから仕事って面白いよねぇ」
「……フフッ」
「一生懸命やるだけが仕事じゃないからねぇ」
「きっとそうなんでしょうけど、僕にはなかなか難しいです」
「宙を舞う炒飯って綺麗だねぇ」
 全然綺麗じゃねえよと思いながら、私は笑顔だった。なんの解決にもなっていない。なんの答にもなっていないけど、少しだけ心が軽くなった気がした。
 休憩室で、牧さんがタバコを吹かしながら言った。
「ねえ、君はうちの女バイトの中で誰が好きなの?」
「……双子の吉田姉妹が好きです」
「知ってる? 双子ってどっちかが必ずエロいらしいよ」

『働きアリに花束を』(扶桑社)の「炒飯大回転」より

――実際の文章に触れると、爪さんのエッセイのおかしさが伝わると思います。

  このエピソードが連載のキッカケですね。それから、家が貧乏だったので、8歳から醤油のタレ瓶(弁当に付属する魚などの形をしたポリ容器)を作る内職をしていたことを編集者に話すと、面白がってくれて「次のテーマは勤労に関することを書いたらどう?」とアドバイスされたんです。

 この本には、ビジネス書籍にありがちな「がんばりなさい」も、逆張りの「がんばらなくていいよ」もなくて、いわば「今のまんまでいいじゃん」というゆるいメッセージが込められているのかも。それから、山菜取りのバイトやSMバーで十字架に磔にされる仕事などいろんな職業の話があるので、そこを楽しんでもらえるとうれしいですね。

――働く爪さんのお話から、どんな仕事にもひたむきに取り組む姿勢を感じました。

  子供のころから、仕事をするから対価としてお金をもらえるんだと親父に教え込まれました。親父は学校では教えてくれない世の中の仕組みをたくさん教えてくれました。小学校4年生の時に「お前は顔で女を落とせないから強い心を持った男になるしかない。お前がモテるのは30歳、いや40歳ごろだ。しばらくは辛い時期が続くかもしれないけど負けるな」とか。

――小学生には難しい箴言ですね。この本に書かれているだけでもかなりの数ですが、今まで経験した職種はどれくらいの数ですか?

  日雇いバイトを入れたら100くらいになるでしょうか。東京に来てからは、コンサートスタッフや解体の仕事など、いろいろな現場にいきました。でも、日雇いから抜けきれなくて経験する仕事が増えただけですから、誇れるものではないですよ。本では楽しそうに書きましたが、実際の日雇い労働の現場はしんどいです。本当に楽しかった日雇いは何十回に1回です。だから自分で工夫して楽しむしかなかった。そこは勘違いしないでください。(笑)

――たくさんの日雇いを経て、一番長く勤めることになるWEB制作会社に入るんですね。同僚がラッパーばかりというエピソードは強烈でした。

  WEB制作会社での仕事として、海外アダルト動画サイトの紹介がありまして。1日10本エロ動画を見て、それぞれ200字程度のレビューを書いていました。それを半年も続けているとだんだん脳が腐ってきて、途中から「ビートルズのこの曲が好きならこのエロ動画で抜け」とか、半分ふざけたレビューをするようになったんです。すると、ページビューが20倍ぐらい跳ね上がってしまって……。「面白いけどちょっとふざけ過ぎだね」と社長から怒られました。

――でも、それが今につながる文章修行になっていたのですね?

  そうでしょうね。文章修行といえば小学生の時夏休みの絵日記を友人の分まで書いてお金をもらってたんですが、あれもいい修行になりました。自分が経験していない他人の夏休みを想像して書くわけですからね。その絵日記バイトについてもこの本に書いてます。

 今回、3カ月連続でエッセイを発売するということで、4月に『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)という、学生時代の淡い恋物語をまとめた本も出るのですが、そこに出てくるクラスメイトたちもみんな個性的でした。

 小学校のとき「あなたの家のオリジナルメニューを給食にしましょう」というコンテストがあって、父子家庭だったウチは祖母が作る「しそ御膳」を応募しました。すると年配の先生たちにウケたのか、それが採用されたんです。でも、実際にしそ御前が出た日、学校はもう地獄絵図になりました。食べた生徒全員が「まずい、まずい」と吐き始めて、「お前の責任だ」と僕に文句を言い始めるヤツもいて、とても落ち込みました。そんなとき「私は美味しかったよ」と声をかけてくれた女のコがいたんです。ただ、その女のコは、毎日ハナクソを食ってる子だったんですよ!! 今だったら素直にありがとうと言えるのに、子供のときはうまくやれなくて……。こんな経験でも、大人になった今では忘れられない大切な記憶ですね。そんな思い出が4月に出す本にはいっぱい詰まってます。

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