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誰もが驚いた衝撃のラスト!『天国と地獄』北村一輝が最後に見せた圧巻の男気と存在感

ドラマ『天国と地獄』
天国と地獄~サイコな2人~』公式サイトより

 「この殺人はお兄ちゃんの声じゃないのか。立場の弱い人間がいかに容易く奪われ続けるか」「やってることは人殺しだ。汚ねぇしゃがれた聞くに耐えない声だ。でも…それでも…声は声だ。お前にその声を奪う正義はあるのか!?」

脚本家・森下佳子が投げかける、強烈なメッセージがそこに集約されていた。

 3月21日に最終回を迎えた綾瀬はるか主演の日曜劇場『天国と地獄~サイコな2人~』。刑事の望月彩子(綾瀬)と連続殺人の容疑者・日高陽斗(高橋一生)の魂が入れ替わった第1話から約2カ月、綾瀬と高橋を中心に柄本佑や溝端淳平、北村一輝らキャスト陣の魅力と、次々に謎が増えていくミステリアスな物語に多くの視聴者が振り回された日々が終わりを告げた。ラストに向け右肩上がりだった視聴率も、最終回は平均世帯視聴率20.1%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)を記録し、有終の美を飾った。

 冒頭のセリフは最終回で、北村一輝演じる刑事・河原三雄が、兄の犯した殺人の罪をすべて背負おうとする日高に、取調室で声を荒げ放った渾身のセリフ。それは現代社会が抱えるさまざまな不条理を提示すると同時に、正義とはなんなのか?を問うものであった。

 日高の双子の兄・東朔也(迫田孝也)はたった15分早く生まれたばかりに、辛い人生を送ることになった。幼い頃に両親が離婚、引き取られた父親は借金を抱え貧困に喘ぎ、就職しても上司のパワハラからうつ病になり、不当な解雇をされ、認知症の父親を1人で抱え、最後には自らも癌を患い余命わずかと知る。母親に引き取られ裕福で愛情溢れる家族や仲間に囲まれ育った弟の日高とは天国と地獄ほどかけ離れた人生。その差はたったの15分だった。

 「こんなに違うのは何でなんだよ? 俺がバカだから? 怠け者だからか? 自己責任か? 違うだろ! 15分だよ! お前が15分先に生まれてくりゃ、お前の人生は俺のものだったんだよ!」

第9話で東が日高に漏らした悲痛な叫び

 親の貧困やそこから生まれる格差、パワハラ、非正規雇用、認知症の親の介護など、自分では如何ともしがたい不条理さに対するやりきれぬ悲しみと怒りが、東を殺人へと駆り立ててしまった。現代社会が抱えるこれらの問題を、自助すべきことだと押し付けられ苦しむ人がいる。それはコロナ禍にいる私たちの胸に深く突き刺さる。

 そして、そんな東のやり切れぬ想いをすくい上げたのが、河原だった。当初、嫌味でセクハラで違法捜査も厭わない悪徳警官のように描かれていた河原だが、揺るぎない信念・正義のもと、真相に辿り着いた。最後の日高を追及する緊迫の取り調べシーンでは、北村の圧巻としか言いようがない演技に心揺さぶられた視聴者は多かっただろう。報われない人生だった東だが、河原が声を代弁し、その罪をしっかりと東のものとしてくれたことが、東にとってはせめてもの救済となったのではないだろうか。

 「河原刑事が警察でありながら殺人者の東朔也の『人間の尊厳』をアツく語り、日高の愛を見抜いてたコロンボや古畑任三郎レヴェルの名刑事」「正しいことしているのにどんどん嫌われる北村一輝が最後好感度巻き上げてくのサイコーだったな」「北村一輝、さすが!」と多くの視聴者からも絶賛の声が上がっていた。

 さらに、ドラマの序盤から幾度となく登場する“正義”という言葉。“正義”とは何であるか?そう突きつけられているように感じた。広辞苑には正義とは「正しいすじみち。人がふみ行うべき正しい道」とある。では正しいとは? さまざまな価値観がますます多様化する社会において、“正しさ”も“正義”も一定ではないだろう。人にはそれぞれの正義がある。

 「私に私の正義を守らせて」

 そう彩子に諭され、最終的に単独犯だとする供述が嘘だということを認めた日高。彩子には彩子の、河原には河原の、日高には日高の正義があった。少しずつ違うその正義をどう使うかで、人を守り、救うこともあれば、傷つけてしまうこともあるのだろう。

 最初は不気味ささえ漂うミステリーから、いつの間にか深い人間愛を見せるヒューマンドラマとなり、悲しい運命と事件ではあったが、最後は大団円となった『天国と地獄』。緊迫するストーリーの中で終始癒しの存在であった八巻(溝端淳平)は、最後まで八巻らしさを披露してくれたし、彩子の前から身を引くように消えた陸(柄本佑)との別れは泣けたが、「俺はサンドバッグだから、いつかは破れる運命」と言っていた陸らしい去り方だった。そして、魂を分け合い、最後には“究極の愛”が生まれた日高と彩子がまた入れ替わってしまう、という衝撃のラストも、続きがあるのかもと匂わせる『天国と地獄』ロスの視聴者への粋なサービスに感じられた。

 魅力的なキャラクターに加え、ミステリー要素満載で考察も楽しめ、最終的には深い人間愛に心打たれた『天国と地獄』は、視聴者から続編やスピンオフを望む声が続出する、総じて秀逸なドラマであったと言えるだろう。

■番組情報
日曜ドラマ『天国と地獄~サイコな2人~』
出演: 綾瀬はるか、高橋一生、柄本佑、溝端淳平、中村ゆり、迫田孝也、林泰文、野間口徹ほか

脚本:森下佳子
編成・プロデュース:渡瀬暁彦
演出:平川雄一朗、青山貴洋、松木 彩
プロデュース:中島啓介音楽:髙見 優
主題歌:手嶌葵「ただいま」(ビクターエンタテインメント)
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/tengokutojigoku_tbs/

南沢けい子(ライター)

愛知県名古屋市生まれの食いしん坊ライター。休日はNetflixやAmazonプライムを駆使して邦画や洋画、海外ドラマを観まくるインドア派だが、Netflixオリジナルドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』に影響されて20インチのミニベロを購入。主人公の男の子たちになった気分でサイクリングロードを走るのが最近の楽しみ。

みなみさわけいこ

最終更新:2021/03/22 13:30
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