夫・徳川家茂を慕っていた皇女・和宮に訪れた悲劇──慶喜による“無視”と家茂に囁かれた“秘密の側室”の存在

文=堀江宏樹(ほりえ・ひろき)

──歴史エッセイスト・堀江宏樹が国民的番組・NHK「大河ドラマ」(など)に登場した人や事件をテーマに、ドラマと史実の交差点を探るべく自由勝手に考察していく! 前回はコチラ

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深川麻衣演じる和宮 | 『青天を衝け』公式Twitterより

 前回の『青天を衝け』には、ちょっと驚かされました。「天狗党の乱」の鎮圧においても、想像以上の“慶喜推し”が貫かれていましたよね。

 天狗党が挙兵したゆえに「一橋様を追い詰めてしまった」、だから自分たちは死罪になっても致し方ない……と首を粛々と差し出す武田耕雲斎(津田寛治さん)。憤然としたままだった藤田小四郎(藤原季節さん)とは対照的な死でした。慶喜の冷淡さに対する世間の非難は、ドラマでは描かれずに終わりそうです。この事件の顛末については、今回のコラムの内容とも少し関わってくるので、覚えておいてくださいね。

 さて前回の放送では、将軍・徳川家茂がついに第二次長州征伐のため、上方に出発するシーンも描かれました。史実では慶応元年(1865年)5月です。そして出陣の直前、家茂は義母にあたる天璋院の耳元で何かを囁いていました。これは恐らく、後継者の話なんですね。家茂は(徳川御三卿のひとつである)田安家の亀之助という、当時4歳の少年を、自分の後継者に指名していきました。

 ただ、史実では天璋院ではなく、フジテレビの歴史ドラマ『大奥』のファンにはおなじみの瀧山という奥女中に託されたようです。『青天~』には残念ながら瀧山の登場はないので、天璋院に伝える流れになったのでしょう。

 4歳の少年を自分の後継者に指名したことから、家茂の中には、慶喜という人物への不信感が募っていたということが明確にうかがえます。『青天~』の慶喜のキャラはよくも悪くも冷静ということで定まっていますが、史実の慶喜は時局で態度をコロコロと変える、要注意人物というイメージがすでに定着していました。

 慶喜については、天狗党の乱の後始末で世間の悪評を招いている最中というだけでなく、慶喜がかつて協力者たちに「大愚物(=大馬鹿者)」と発言し、幕政改革を頓挫させてしまったことに対する無念など、さまざまな思いが家茂の胸中にはあったようですね。

 家茂はその後、大坂城に入り、幕府に反抗的な態度を見せつけていた長州藩の討伐にあたろうとしますが、頼みの薩摩藩が出兵を拒否するなど、戦局はまともに動かずじまいでした。裏で薩長同盟が結ばれてしまっていたからです。

 膠着状態のまま滞在日数だけが伸びていく中、慶応2年(1866年)7月、家茂は大坂城で倒れてしまいます。そして20日に「脚気衝心」のため、亡くなってしまいました。数え年で21歳の若さでの死ですから、毒殺説などもあるにはあります。

 しかし、昭和33年(1958年)以降、増上寺に埋葬された徳川将軍家の遺骨調査と改葬が行われ、家茂は歯のエナメル質が通常より薄い性質だったことが判明しています。甘い物が大好きという嗜好もあり、彼のほとんどの歯は(重度の)虫歯だったそうです。当時は治療手段もありませんから、重度の虫歯が敗血症を起こし、それが本当の死因となった可能性も否定できないでしょう。

 家茂の死は世間には1カ月の間、秘密にされました。幕府にとって、旗色の悪い戦局の中で将軍の死がもたらすインパクトは大きすぎるからです。しかし、家茂重体の知らせは7月上旬には江戸城に極秘裏に伝えられ、和宮を驚かせました。和宮は家茂の病気平癒を願い、お百度参りをはじめ、江戸から漢方医を急使で送りました。

 しかし、現代とは比べ物にならないほど当時の通信状況は悪く、家茂の容態をまともにつかめないまま、和宮のもとに届いた次の知らせは彼の死を告げるものでした。7月25日のことです。訃報を受け、和宮はすぐに剃髪を決心します。家茂の生母・実成院の切なる願いで、毛先だけを切る略式の剃髪に留めることになりましたが、和宮の毛髪だけは大坂に送られ、家茂のお棺の中に収められることになったのです。

 しばらくして、家茂の遺品が江戸に送られてきました。この時、荷物の中に彼が事前に買い求めていた西陣の織物があることを見た和宮は、

「空蝉(うつせみ)の 唐織ごろも なにかせむ 綾も錦も君ありてこそ」

と悲しみを歌の中に迸らせました。“美しい織物を贈ってもらっても、それはあなたが生きていてくれるからこそうれしい代物。あなたを失った今、私は魂が抜けたセミの殻のようになっています”くらいに意訳しておきましょうか。

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