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宮下かな子と観るキネマのスタアたち第19話

本木雅弘が企画を直談判した映画『おくりびと』自身の体験と改めて”死と生”に向き合う

女性だと思っていた遺体にアレが…

 真っ白な雪景色が広がる山形県庄内平野。本木雅弘さん演じる新米の納棺師・小林大悟と、大悟の務めるNKエージェントの社長、山崎努さん演じるベテラン納棺師・佐々木が、ある一軒家で納棺を行う場面から始まります。大悟が思わず「美人なのに…」と呟くほど美しい遺体。遺された家族が見守る中、粛々と納棺の儀式が行われていくのですが、遺体の体を拭きながら、途中「ん…」と声を漏らす大悟。こそこそ佐々木に耳打ちをします。

大吾「付いてるんですけど…」
小林「何が」
大吾「アレです」

 女性だと思っていた遺体が男性であったと気付く2人。小林が「女性用のお化粧と、男性用のお化粧がありまして……」と相談すると、絶妙に揉める遺族たち……この序盤の見せ方に、まずグッと心を掴まれるのです!決して軽率には語れない納棺師という〝死〟に関わる仕事を題材にしながらも、絶妙なラインで〝笑い〟を交えた演出。なんとなく構えてしまっていた心が、この序盤のやりとりで程よく力が抜けるんです。

 映画全編において、常に緊張感は保ちつつも、このような一線を越えない上品な〝笑い〟の要素が散りばめられていて、そのバランスが本当に見事。

 そもそもこの作品は、本木さんご自身が企画した作品で、27歳の時に訪れたインドでの旅がきっかけだそう。ガンジス川で、洗濯をしている女性や遊んでいる子供達がいる中、いくつもの死体が川を流れていく光景を前にし、本木さんは衝撃を受けたと言います。日常の中に、死が常に隣り合わせにある光景。その死生観に興味を持ち、帰国してから読み漁った書物の中で、青木新門さんの「納棺夫体験日記」から納棺師という職業を知り、企画を立ち上げたとのこと。

 日本でこのような題材は、かなりデリケートなものとして扱われているため、紆余曲折15年経て、ようやく公開された、想いの詰まった作品です。さぞかし脚本も、緻密に計算されて、充分に練られたことと思います。

 納棺師を演じるにあたり、納棺師の方から一連の所作を教わり、その場の空気感を知るため、スタッフとして実際の納棺の現場にも同行したという本木さん。映画の中で披露されているその所作は、息をのむほどの美しさです。静寂で、でもあたたかく、そしてどこか神秘的。不思議な空気の流れが、画面を通してでも伝わってきます。

 その空気感にそっと優しく寄り添った、久石譲さんの手掛ける劇中曲もぴったり。悲壮感を漂わせるのではなく、故人の旅立ちに寄り添うような壮大さをも感じる曲調。映画では特に、悲しみの感情に焦点を当て、視聴者の涙を誘う場面であったり、物語の転機として描かれがちな人間の〝死〟。それをこんなにも穏やかに、静かに、壮大に、そして優しさに包みこむように描いた映画が、他にあるでしょうか。浄化されていくようなこの空気感は、この映画でしか体感できないものだと思います。

 納棺師、という職業に対する偏見は、映画の中で多く描写されています。大悟の仕事内容を知った広末涼子さん演じる妻は、「汚らわしい」と家を出ていってしまうし、杉本哲太さん演じる旧友・山下にも、まともな仕事をしろと言われてしまう。確かに日本では、〝死〟は日常とはかけ離れたところにある気がします。それ故に〝死〟に関わる仕事への偏見があるのではないかと。そんな大悟を否定する2人でしたが、納棺に立ち会い、大悟の仕事を間近で見ることを機に、考え方が変化するのです。

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