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宮下かな子と観るキネマのスタアたち第20話

黒木和雄『美しい夏キリシマ』、戦争を描き続けた監督が見せる“生への尊厳を奪われた人”たちの哀しさ

黒木和雄『美しい夏キリシマ』、戦争を描き続けた監督が見せる生への尊厳を奪われた人たちの哀しさの画像1
イラスト/宮下かな子

 皆さんこんばんは、宮下かな子です。

 夏もそろそろ終わりに近づいてきていて、「あぁ今年もかき氷食べる機会なかったなぁ」とか「あの夏服結局今年も着なかったなぁ」とか、そんなことを考えています。夏らしい事、今年もあまり出来ませんでした。今年も、と数年前からずっと言っているような気がして、思い返してみると私、夏らしい事を東京で味わった経験がありません。上京してからプライベートで、海も、友達と夏休み旅行も、花火大会やお祭りも行った事ないんです。

 寂しい人なのかな~私。夏に読み返したくなる小説やマンガは沢山あって、江國香織さんの『すいかの匂い』(新潮文庫)高野文子さんの『絶対安全剃刀』(白泉社)大橋裕之さんの『夏の手』(幻冬舎文庫)は、毎年この季節に読み返します。

〝夏の思い出〟と聞いて思い浮かぶのは、地元の花火大会と夏祭り。気怠いラジオ体操。近所の市民プールで何故か販売されていた白胡麻団子。母のキュウリの一本漬けとミニトマトの出汁漬け。私の夏は、どうやら福島にあるようです。そういえば、先ほどあげた小説と漫画も共通して、子供の頃の記憶が甦えるような作品です。

〝夏休み〟があった学生時代の思い出は、やっぱり特別で、何年経っても鮮やかな思い出なのだなぁと思います。今や夏休みも冬休みもなければ、平日なのか日曜なのか、曜日感覚もあやふや。

 そんな私の生活の中での唯一の習慣が、この連載が月曜更新であることなので、この連載のおかげで極端に乱れることなく生活できています。来年こそ、みんなでマスクを外して、思いっきり楽しめる夏を迎えられたらいいですね。

 さて、夏の終わりに今回は、黒木和雄監督の『美しい夏キリシマ』(2003年パンドラ)をご紹介しようと思います。

 黒木監督はご自身の体験をもとに、『TOMORROW 明日』『美しい夏キリシマ』『父と暮らせば』と戦争映画を続けて制作されています。今回参考資料として、黒木さんの生い立ちから戦時中の体験、そして映画制作への想いと過程等が書かれた『私の戦争』(黒木和雄著 岩波ジュニア出版)を読みました。生まれてから15歳で敗戦を迎えるまで、所謂〝15年戦争〟という時代を生きた黒木監督。戦争の世しか知らず、敗戦後どう生きたら良いのだろうと途方に暮れたという言葉がとても衝撃的で、戦争の凄惨さを感じました。戦後76年を迎えた今年の夏。黒木監督が遺した声に、真摯に耳を傾けたいと思います。

〈あらすじ〉
主人公康夫(柄本佑)は、親友が被爆死するのを目の当たりにし、生き残った罪悪感から身体を壊して自宅療養中である。1945年、終戦直前の霧島。康夫や、村の人々の行き場のない想いを、霧島の大自然の中で描いた物語。

 敗戦直前を描いた作品なのに、なんだろうこの雄大な自然の美しさは。というのが、鑑賞しながら抱いた違和感です。舞台は1945年8月、宮崎県の霧島。こんなにも静かな戦争映画は、観たことがありません。そしてこれほど胸騒ぎがする、恐ろしい戦争映画も観たことがありません。竹槍訓練をしている様子があっても、戦争とは無縁の地のようにも思える、のどかな田舎町。しかし、そんな地域にも戦争の暗い影が浸透していたことに、戦争の恐ろしさを感じるのです。

 ピアノの高音で繊細に奏でられる曲調も、どこかか細くて不安定。広い空と生い茂る緑と蝉の鳴き声。霧島の大自然が美しければ美しいほど、そこで暮らす人々の心の闇が対比となり、その残酷さが色濃く浮かび上がってきます。

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