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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.652

瀧内公美主演の社会派ミステリー『由宇子の天秤』真実の行方を決めるのは、はたして誰なのか?

文=長野辰次(ながの・たつじ)

いじめ事件を追う由宇子(瀧内公美)にとって、カメラは最高の武器だった。

 マスメディアの功罪のひとつに、「分かりやすさ」を挙げることができる。どんなに複雑な事件でもテレビは限られた放送時間、新聞は限られた文字数の中で、多くの人が理解しやすいように噛み砕いた形で伝える。マス(大衆)に向けて伝えることはできるものの、事件内容は単純化され、被害者と加害者という分かりやすい構図へと置き換えられてしまう。だが、複雑な内面を持つ人間たちが暮らす社会は、白か黒かに分けられる単純な世界だろうか。映画『由宇子の天秤』は、白と黒とに二分された社会の境界線をヤジロベエのように綱渡りする主人公を描いた、スリリングな社会派ミステリーとなっている。

 まず、冒頭のシークエンスに引き込まれる。ドキュメンタリー番組のディレクターをしている由宇子(瀧内公美)は、学校でいじめに遭った娘を自殺で失った父親を取材している。娘の自殺が報道された後、学校側だけでなく遺族も激しくバッシングされた。父親は娘を亡くした悲しみと悔しさを、カメラの前でうまく言葉にすることができない。しばらく沈黙が続いた後、由宇子は優しい笑顔でOKを出す。取材終了。ホッとした父親は安心して、ようやく本音をしゃべり始めた。由宇子が待っていたのは、この瞬間だった。カメラマンはあうんの呼吸でカメラを回している。由宇子が優秀なディレクターであり、社会的弱者に寄り添うジャーナリストであることを印象づけるファーストシーンとなっている。

 続いて由宇子は、テレビ局のプロデューサーたちにそれまでの取材した映像を仮編集したものを見せる。フリーランスのディレクターである由宇子に対し、局側のプロデューサーは厳しい。マスコミ報道がきっかけでバッシングが起きたという部分はカットし、いじめに遭った少女の遺族vs.学校という分かりやすい構図にしろと指示する。懸命に抗う由宇子だが、クライアントであるテレビ局側には逆らえなかった。「社会の木鐸」でありたいと願う由宇子の心は晴れない。その晩、父親である木下政志(光石研)が経営する学習塾で、由宇子は生徒らを相手に講師のバイトを務める。無邪気な子どもたちと接する時間は、由宇子にとっての安らぎでもあった。

 メディアリテラシー、ネットリンチ、いじめ、子どもの貧困問題……。さまざまな社会問題が『由宇子の天秤』には盛り込まれている。正義感の強い由宇子は自殺した少女を追い詰めた真犯人の正体に迫ろうとする。だが、そんなとき、学習塾で子どもたちと過ごす父・政志が不祥事を起こしてしまう。塾の経営者にあるまじき、マスコミが飛びつきそうな醜聞だった。ドキュメンタリー番組の放送を控える由宇子は、激しく動揺することになる。

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