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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.647

ジブリアニメでも描かれた「団地文化」の終焉。都営アパート最期の日『東京オリンピック2017』

ジブリアニメでも描かれた「団地文化」の終焉。都営アパート最期の日『東京オリンピック2017』の画像1
東京オリンピック開催の陰で、取り壊された「都営霞ヶ丘アパート」。

 テレビに映る一流アスリートたちの活躍に熱い声援を送る人たちがいる一方で、自国開催となったスポーツの祭典を素直には喜べない人たちも少なくない。コロナ禍による非常事態宣言下での無観客開催という、異例の大会となった『東京オリンピック・パラリンピック大会』。そのメイン会場となっている「新国立競技場」が完成した裏では、消滅することを余儀なくされたコミュニティーがあった。映画『東京オリンピック2017 都営霞ヶ丘アパート』は、行政から退去を命じられた都営団地で暮らす住民たちの最後の日々を収めた貴重なドキュメンタリー作品となっている。

 旧国立競技場へ出掛けたことのある人なら、すぐ近くに年代物の公営団地があったことを覚えているのではないだろうか。現在は更地化され、五輪用のバックヤードとなっているその場所に「都営霞ヶ丘アパート」は建っていた。かつては戦災者や中国大陸からの引き揚げ者たち向けの木造長屋だったが、1964年の東京五輪が開催されるにあたって、モダンな都営団地として生まれ変わった。以来、半世紀以上にわたって、住民たちはこの団地で暮らしてきた。

 3階建てから5階建てまで全10棟あったこの団地には、最盛期には300世帯が暮らしていた。国立競技場や神宮球場などが並ぶ霞ヶ丘町のほぼ全人口を占めていた。だが、時は流れ、昭和も終わり、平成へと元号が変わる。2012年7月、団地で暮らす住民たちに何の予告もなしに「移転のお願い」という一枚のハガキが届く。国立競技場を建て替えるために、この団地を取り壊すという。東京都からの通知だった。

 当時の都知事は石原慎太郎だった。この団地で暮らす89歳になる婦人がカメラに向かって、ことの真相を語る。

「こんな一等地に汚いアパートがあるのはダメだ。だから、いつ取り壊してもいい。と、言ったのが石原さん」

 団地の建て替えは検討されない、一方的な退去命令だった。石原都知事はリーマンショック後の就労困難者たちが集まった派遣村の支援も早々に打ち切っている。問題を根本的に解決することなく、表面的な見栄えだけをこの政治家は気にした。任期途中で都知事職を放り投げた石原慎太郎に代わった新しい都知事たちの対応も、みんな同じだった。

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