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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.661

『ドーナツキング』はアメリカンドリームの味? スイーツに隠された虐殺とアジア難民の歴史

表裏一体の関係にあるドーナツとジェノサイド

『ドーナツキング』はアメリカンドリームの味? スイーツに隠された虐殺とアジア難民の歴史の画像2
テッドが支援することで、多くのカンボジア人がドーナツ店を持つことに

 全米最大のドーナツチェーン店といえば「ダンキンドーナツ」だが、西海岸一帯にはなかなか進出することができなかった。カンボジア人によるドーナツ店が、地域に密着して繁盛していたからだ。テッドの店が成功したのには理由があった。ドーナツが大好きなテッドだけでなく、お嬢さま育ちだった妻のクリスティも、10歳に満たない子どもたちも、一緒になって店を手伝った。家族が働くことで、人件費を抑えることができたのだ。

 他のカンボジア人の店も同じだった。難民として米国に渡った彼らは、自分たちの居場所を作るために休むことなく朝早くからドーナツを揚げ、年中無休でドーナツを売り続けた。米国人の口に合うドーナツを作ることで、彼らは米国社会と同化していった。

 1970年代にカンボジアで大量の難民が発生したのは、ポル・ポトが率いた共産党組織「クメール・ルージュ」が原因だ。原始共産主義を謳ったクメール・ルージュは、カンボジアの首都プノンペンで暮らしていた都市生活者を全員追放し、農村での強制労働に従事させた。少しでも逆らった者は、その場で殺された。教師や医者だけでなく、文字が読めるだけ、メガネをしているだけで「知識階級」とみなされ、処刑された。映画『キリング・フィールド』(84)などで描かれた大量虐殺である。

 この大虐殺によって、当時600万人いたカンボジアの全人口が300万人にまで減っている。理想国家を目指したクメール・ルージュが生み出したのは、死体が累々と並ぶ地獄絵図だった。高級官僚だったクリスティの家族もその犠牲となっており、テッド自身も間一髪でプノンペンから脱出した身だった。

 米国がカンボジア難民を受け入れたのにも事情があった。米国が起こしたベトナム戦争に対し、隣国のカンボジアは中立の立場にあったが、実際にはベトナムの反米勢力がカンボジア内を通って物資を輸送するのを黙認していた。そのため、米国はCIAを使ってカンボジアで内乱を起こし、その結果としてクメール・ルージュが政権を握ることになった。大虐殺も難民も、その原因は米国が生み出したものだった。テッドたちが作る甘いドーナツとクメール・ルージュによるジェノサイドは表裏一体の関係にある。

 クリント・イーストウッド監督&主演作『グラン・トリノ』(08)では、タイの難民キャンプを経由して米国に来たモン族の一家が描かれた。東南アジアの山岳民族であるモン族は、ベトナム戦争で米軍に協力したために祖国にいられなくなって難民化したという事情があった。10年以上続いたベトナム戦争は、いまもアジア一帯と米国社会に大きな影響を与え続けている。

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