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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.661

『ドーナツキング』はアメリカンドリームの味? スイーツに隠された虐殺とアジア難民の歴史

食べた人に祝祭感を与える特別なスイーツ

『ドーナツキング』はアメリカンドリームの味? スイーツに隠された虐殺とアジア難民の歴史の画像3
難民二世や三世たちが、新メニューで店を盛り立てるようになってきた

 ドーナツ店の経営に成功し、他のカンボジア人の店からの賃料も入り、テッドは「ドーナツ王」として富と名声を手に入れる。アメリカンドリームの体現者として、大豪邸で暮らすテッドの在りし日の姿が映し出される。貧しい家庭に生まれたテッドは貪欲な姿勢を貫き、カンボジアで高級官僚の娘だった令嬢クリスティを手に入れて幸せな家庭を築いただけでなく、米国大統領から握手を求められる存在にまで登り詰める。人生の絶頂期だった。

 だが、リング状のドーナツに始まりと終わりがないように、貪欲さにも終わりがない。それまでガムシャラに働き続けてきたテッドは、ラスベガスで遊びを覚えてしまう。最初は少額だったカジノでの掛け金が、どんどん上がっていく。ギャンブル依存症になった者のゴールは、ひとつしかない。全財産を使い果たし、すべてのドーナツ店を手放すことになるテッドだった。米国は成功者を称賛するが、脇が甘い者は容赦なく身ぐるみを剥がされてしまう。それも、また米国だ。

 愛する妻や子どもたちとも別れ、テッドはひとりぼっちでカンボジアで暮らすことになる。ドーナツのように「0」に戻ってしまったテッドだった。

 中国からの移民二世としてLAで生まれ、ご近所のドーナツを食べて育った女性監督のアリス・グーは、その後のテッドを追う。カンボジアで寂しい人生の幕引きが待っているかのように思えた老テッドだったが、映画の終わりに再び米国西海岸のドーナツ店を訪ねることになる。ギャンブルで同胞たちに大迷惑を掛けたテッドだが、多くのドーナツ店は二世や三世たちが切り盛りするようなっていた。インスタ映えするようにと新しいカラフルなメニューを増やした店に、テッドは招かれる。

 二世、三世にとってテッドは、生きた伝説の「テッドおじさん」であり、カンボジア難民が米国社会に居場所を見つけることができた大恩人でもあった。若い世代が考えた新しいドーナツを、テッドおじさんは嬉しそうに頬ばる。食べた人に祝祭感を与えてくれる特別なスイーツ。それがドーナツだ。

 ドーナツは数字の「0」を思わせるが、「0」は決して虚無ではない。また、ドーナツは始まりでもあり、同時に終わりでもある。『ドーナツキング』を観ると、普段食べているドーナツの味がほんのちょっぴり変わることになるかもしれない。

 

『ドーナツキング』
監督/アリス・グー 製作総指揮/リドリー・スコット
出演/テッド・ノイ、クリスティ、チェト・ノイ、サヴィ・ノイ、メイリー・タオ
配給/ツイン 11月12日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
©2020 – TDK Documentary, LLC. All Rights Reserved.
http://donutking-japan.com

最終更新:2021/11/12 17:00
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