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「正義の代償」を描く実話映画『ダーク・ウォーターズ』が他人事ではない理由

「怒りを溜め込む」役が似合うマーク・ラファロの信念

「正義の代償」を描く実話映画『ダーク・ウォーターズ』が他人事ではない理由の画像2
C) 2021 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC.

 さらなる注目ポイントは、マーク・ラファロが主演だけなくプロデュースを務めていることだろう。プライベートで環境保護活動にも熱心に取り組んでいる彼とって、基になった記事は「自分の仕事」と「環境に対する熱意」の両方を融合できるものと感じていたそうだ。

 そのマーク・ラファロは『アベンジャーズ』(12)などで怒りの感情で強くなるスーパーヒーローのハルクを演じており、今回も同様に「怒りを溜め込む」役にはぴったりだ。どこにでもいそうな親しみやすさがあるとともに、巨大企業を敵に回すプレッシャーや公私両面のストレスを抱えつつも、毅然として立ち向かう弁護士の信念を見事に体現してみせていた。

 さらにマーク・ラファロは、「記事では完全に説明されていない」と感じたことを、自身が演じる弁護士のロブ・ビロットに取材して訊いたという。それは「訴訟を進めるうえで、化学会社だけを顧客に持つ法律事務所に属していることで余計に大変だったかどうか」だったそうだ。それは劇中にはっきり反映されており、物語においてもマーク・ラファロは大きな貢献をしていたのだろう。

 他の出演者も、主人公の最大の理解者である妻役にアン・ハサウェイ、威厳ある上司役にティム・ロビンス、ベテラン弁護士役にビル・プルマンと、豪華な出演者が揃っている。アン・ハサウェイは実際の弁護士夫妻が互いに褒め合う様子に感動したそうで、彼らが価値観を共有し、他の人に尽くすことを大事と考えている人たちだと確信もしたのだそうだ。マーク・ラファロとアン・ハサウェイの「理想の夫婦」を期待してみるのもいいだろう。

 本作にはさらなる「意外な出演者」もいる。それは映画が終わった時に明かされるので、「そうだったのか!」と驚ける瞬間を楽しみにしてほしい。

「内部告発もの」で真に焦点を当てるもの

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 トッド・ヘインズ監督は内部告発もの映画のひそかなファンで、『大統領の陰謀』(76)や『インサイダー』(99)が特にお気に入りなのだそうだ。トッド・ヘインズ監督は過去に1950年代のニューヨークを舞台に同性愛を描く『キャロル』(15)など時代や背景の「再現」にもこだわった映画も撮ってきたため、今回のような実話を基にした作品にはうってつけの人選でもあったのだろう。

 そのトッド・ヘインズ監督が求める信憑性のレベルは高く、「事実に忠実であること」「登場人物たちや彼らの経験の特異性、個性に敬意を払うこと」「それでいて観客がきちんとストーリーを追えて、引き込まれる作品にすること」を目標に掲げたそうだ。本作のリアリティとエンターテインメント性の高さは、その作家としての資質とこだわりの強さのおかげでもあったのだろう。

 さらにトッド・ヘインズ監督は内部告発もの映画において真に焦点を当てるのは「平凡な人間」であり、「彼または彼女のたどる過程であり、真実に立ち上がることでその人物が直面する、致死的とまではいかないにしても、精神・感情面の危機」であるとも語っている。

 ニュースや記事で示される「権力の乱用や脅迫や隠蔽」という事実だけでなく、そこに至るまでの「物語」、さらに「感情」もわかる、というのは映画という媒体そのものが持つ魅力だ。

 『ダーク・ウォーターズ』の主人公も(弁護士という特別な職業を除けば)、依頼をしてきた農場主の男も、元々は普通の人間であり、巨大企業との戦いのために苦心する彼らの物語や感情を知ることには確かな意義がある。最初に掲げたように、決して「他人事ではない」意識で観てもらいたい一本だ。

『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』

12月17日(金)、TOHOシネマズ シャンテほかロードショー
監督:トッド・ヘインズ(『キャロル』『エデンより彼方に』)
出演:マーク・ラファロ アン・ハサウェイ ティム・ロビンス ビル・キャンプ ヴィクター・ガーバー ビル・プルマン
2019年/アメリカ/英語/126分/ドルビーデジタル/カラー/スコープ/原題:DARK WATERS/G/字幕翻訳:橋本裕充
配給・宣伝:キノフィルムズ
提供:木下グループ
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ヒナタカ(映画ライター)

「ねとらぼ」「cinemas PLUS」「女子SPA!」「All About」などで執筆中の雑食系映画ライター。オールタイムベスト映画は『アイの歌声を聴かせて』。

Twitter:@HinatakaJeF

ひなたか

最終更新:2021/12/17 08:00
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