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80年代「ムー」は天皇を仮想敵に……陰謀論ブームの今知るべき「オカルトとナショナリズム」日本近代史

「両論併記と結論宙づり」をしたワケ

──「ムー」編集部のスタンスは常に「両論併記と結論の宙づり」で、特定の見解に対して肯定も否定もしないという逃げ方をしていたとの指摘もありました。

茂木 「両論併記は既存の枠組みを再生産するものでしかあり得ない」とはよく言われることですが、「ムー」の両論併記は「オカルト雑誌」という体裁を崩さないためにあったのだろうと私は見ています。

──「ムー」編集部が「歴史、特に古代史の分野では当然、学会で取り上げられてしかるべきテーマや資料が、正当な理由もなく無視され葬り去られている」と書いていると論考にありました。既存の知の枠組みでは認められていない「隠された知」に目を向けろという主張は、今のネトウヨや陰謀論にも通じるものがあるなと感じました。

茂木 おっしゃる通りだと思います。もし、この論考をネット右翼の方が読まれたらどう響くかなということは気になっています。

 ただ、80年代の「ムー」は既存の知の否定について読者に示唆はするけれども、直接的に「行動せよ」とは呼びかけない。ある種の「俺たち、わかってるよね」という符丁に基づくコミュニケーションにとどめています。編集サイドとしては「ムー」を本気にした読者がいたとしても、「我々は責任を取らなければいけないようなことはしていません」と言えるようになっている。実質的には作り手側が導いているように見えるけれども、読者に「自発的に結論を選び取った」と思わせる程度の書きぶりなんですね。

 今回の論考ではそこまで踏み込めませんでしたが、私としてはこうしたオカルト雑誌の態度が90年代のオウム真理教事件に対してどう働いたか、改めての検証は必要だろうと思っています。

──自分たちは将来的に現在のエスタブリッシュメントに取って替わるべき存在であるという「霊的なエリート」意識や、「今の教育や政府はおかしい、何かを隠している」「我々は弾圧されている」という陰謀論はオウム真理教にもありましたからね。

茂木 「あとはあなたがやるだけだ」的な示唆がポロッと書かれていることがあるのですが、それを読者がどう受けとめていたのかは雑誌自体からはわかりません。ただ、可能性は指摘できたかなと思います。

──日本人の祖先はムー大陸からやってきた、神武天皇はポリネシアの太陽王と同一だと言って、グローバルな天皇像を示して古事記や日本書紀に根源を求める天皇の権威性を相対化したかと思えば、日本における宗教的超越性を語る特殊論もあるなど、矛盾だらけの記事を読者はどう摂取していたと思いますか。

茂木 「ムー」を見ていくと、いわゆる「天皇抜きのナショナリズム」が80年代に成立していたようにも見える一方で、天皇とジャパン・アズ・ナンバーワン的な当時の意識を結びつけるような意見もあれば、天皇制批判をしている投稿者も併存していて、雑誌全体として何を主張していたのか、どう受容されていたといえるかは、一筋縄ではいきません。

 おそらく読者自身がすべてを読んで勉強していることはあまりなく、雑誌を読みながら自分にとって都合のいい世界観のパッチワークができるようになっていたのかなととらえています。

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