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冷酷な頼朝を描く『鎌倉殿』 “クレイジー義経”は「一ノ谷の戦い」で本領発揮か

──歴史エッセイスト・堀江宏樹が国民的番組・NHK「大河ドラマ」(など)に登場した人や事件をテーマに、ドラマと史実の交差点を探るべく自由勝手に考察していく! 前回はコチラ

冷酷な頼朝を描く『鎌倉殿』 “クレイジー義経”は「一ノ谷の戦い」で本領発揮かの画像1
源頼朝(大泉洋)|ドラマ公式サイトより

 『鎌倉殿の13人』第15回は想像通り、重い内容でしたね。ドラマでは上総広常(佐藤浩市さん)直筆の願文が鎧の中から出てきても、頼朝(大泉洋さん)の冷淡な態度が変わることはありませんでした。しかし、それとは対照的に、『吾妻鏡』によると史実の頼朝は、上総の“呪い”を恐れてか、無実の罪を着せたことを認めるという弱気な態度を見せています。

 ところで、ドラマには登場しないようですが、無実の罪で暗殺されてしまった上総広常の家族はその後どうなってしまったのだろう?と思う人も多いかもしれません。

 上総が謀反を企んでいたというのは冤罪だったと認めた頼朝の意向で、上総の暗殺から約1カ月は千葉常胤のもとに身柄を預けられていたとされる上総一族の生き残りにも、最低限の(上総の財産の)相続が認められました。しかし、上総家の完全な復権はなく、彼らの代わりに房総半島の長となったのは千葉常胤です。上総と共に頼朝の蜂起に加わった功臣でありながらも、幕府の中でいまいち影の薄かった常胤率いる千葉家ですが、上総暗殺事件の後には大きな得をしたことになります。史実において上総広常暗殺事件の真の黒幕は千葉常胤ではないかと筆者が考える理由はここにあります。

 ドラマでは「上総広常暗殺の黒幕は源頼朝」という設定で、「上総介は言った。御家人は使い捨ての駒と。やつも本望であろう」と言い放つ源頼朝の冷血ぶりが際立っていました。しかし、今回殺されたのは上総広常でしたが、頼朝自身にも“死亡フラグ”が立ったと見てよいでしょう。「少しずつ頼朝に似てきている」と三浦義村(山本耕史さん)から言われていた北条義時(小栗旬さん)が冷血ぶりで頼朝を上回り、その首を取る未来が近づいてきたように筆者には思われます。大江広元(栗原英雄さん)が「もっとも頼りになる者は、もっとも恐ろしい」と義時に言っていたのは、その暗示の意味合いもあったのではないでしょうか。

 このコラムでも何度も話しているとおり、『吾妻鏡』に頼朝の死についての記述はありません。「欠記」されているのです。それゆえ頼朝は幕府の首脳部の意思で暗殺されたという説も(愛人宅で腹上死したという説と同じくらい)根強く唱えられています。『鎌倉殿』では今後、頼朝が幕府のトップ=鎌倉殿としての資質を本格的に疑われるようになり、義時が中心となって、幕府存続のために頼朝を始末する……というような流れになるのではという気がするのです。

 第15回は、頼朝の死後に始まる“バトルロイヤル”の前フリともいうべき描写が目立ったお話でもありました。上総暗殺の役目を引き受ける羽目になった梶原景時(中村獅童さん)にも“死亡フラグ”が立ったような気がします。第16回の予告編映像では、梶原が「いいかげんになされよ!」と怒る場面もあり、それが誰に対する叫びだったかはともかく、今後は梶原と源義経との対立も明確になっていくのでしょう。梶原は己の正義心と、御家人としての(頼朝への)忠誠心を天秤にかけて、ベストを尽くして行動している割に、なにかと損な役が回ってくる印象があります。

 第15回の梶原は、畠山重忠(中川大志さん)に「使われると頼りにされるとは違います。あのお方が我らを信じていないことは梶原殿が一番わかっておられるはず」と言われても、反論できなかったシーンが印象的でした。また、頼朝から、御家人たちの謀反に加担していたのではと大江広元らが疑っているとの理由で、「疑いを晴らせ」と言葉巧みに上総暗殺を強要されてしまうシーンもありましたね。梶原が千葉家主導のクーデターの様子を見に行っていたのは、あくまで主君・頼朝のためです。しかも、同じ目的でクーデターに加担しているふりをした上総を自分の手で斬らねばならなくなった梶原は、息子に「上総介殿を斬るなどためらわざるをえん」とこぼしていました。頼朝のコマとして動き続けるか、上総の味方をするか、土壇場まで考えようとしている態度のように筆者には見受けられましたが、梶原が選んだのは(史実どおり)頼朝だったわけですね。

 “『鎌倉殿』の梶原景時は本心が読めない人物”とする評も読みましたが、筆者もそう感じました。頼朝=権力側に完全服従で、クールな悪役として描かれるのではないかと思っていたのですが、梶原が暗殺される時は、上総と同様に視聴者の心をざわつかせ、同情される存在になっていきそうです。『鎌倉殿』では完全に善人、あるいは悪人として描かれる人物はいないのでしょうね。

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