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寺嶋由芙さんインタビュー・前編

「まじめにアイドル」9年目。寺嶋由芙と「まじめ」に考える、アイドルの“持続可能”な労働環境

スルーできない、アイドルのお給料の話

「まじめにアイドル」9年目。寺嶋由芙と「まじめ」に考える、アイドルの持続可能な労働環境の画像4

──ソロになられてから視野が広がったということですが、具体的に働きやすくなった部分を教えていただけますか?

寺嶋:風通しが良いので、スタッフさんにやりたいことを素直に話せることですかね。特にフリーランスになってからは、私からの提案だけじゃなくてスタッフさんからも提案してくれますし、しかもそれが、改まった席や打ち合わせのタイミングだけでなく、日常会話の中でどんどん言い合えるんです。仕事のパートナーとして認めてくださっていることで私も信頼できましたし、メンタル的にも安心してのびのびと仕事ができました。

 あと、生々しい話ですけど、お給料の明細がもらえることもよかったです。当たり前のことだと思いますが、ざっくりとお給料をいただくんじゃなくて、ひとつの仕事の対価がいくらだったのかを教えてもらえる。そこが不明瞭なまま働いているアイドルは多いんじゃないかと思います。
 
 もちろん、プロモーションなど数値化できない物事があることは理解しているのですが、「どうしてこのお金がもらえるのか」、逆に「これだけ働いてもどうしてこの金額なんだろう」と思いながら働いていて、仕事以前につらくなってしまったこともあって。数字を見せていただいたり、物事が決まっていく過程を教えてもらったり、意見を交わしたり、私を「仕事相手」として捉えてもらうことで働きやすくなりました。そうすると、こちらも自分自身の状態や気持ちを素直に相談できます。

──先ほども話にあったように、若いアイドルだと相手の年齢や社会人歴が自分よりも長い場合、遠慮したり怖気づいたりして意見を交わすことが難しいことも考えられます。風通しを良くするために、ゆっふぃーさんが意識されたことはありますか?

寺嶋:私も人見知りですし遠慮してしまうタイプなので、ズバズバと意見を言えるタイプではないんです。むしろ、大げさにへりくだってしまうというか、「私なんぞのために忙しい時間を割いてくださってありがとうございます」みたいな姿勢になってしまいます(笑)。メジャーなアイドルグループさんたちとは比較できないのですが、私くらいの規模で活動しているアイドルさんの多くは、大手のオーディションに受からなかったなど、苦労してアイドルになられた方が多いので、自分のことを肯定するのが難しいんじゃないかなと。よく言えば腰が低いのですが、悪く言えば自分を低く見積もりがち。

 表舞台に立つ仕事を自分で選んでいるのに変な話ですが、アイドルへの憧れはあっても、「私なんか」っていう言葉が頭の片隅に常にあるんです。そうすると、運営から言われたことを守ることに徹して、おかしな環境にいることや自分の心がマイナスになっていくことに蓋をしてしまう。

 ただ、対等に接してくれる大人たちに出会って驚いたのは、そうした私の卑屈さにスタッフさんが乗っかってこないんです。フラットに、いろんな提案をしてくださるので、大事にしてもらっていることがよくわかります。それに、理不尽なことがあっても「あなたのせいじゃないよ」と言ってもらえる。逆に、自分が間違っている時はしっかり指摘してくれるので、頑張ろうと思えます。少しずつですけど自己肯定感が芽生えていき、やりたいことを意見できるようになりました。なので、自分の心がけもありますけど、環境を変えるという策は考えてもいいと思います。

──仕事のパートナーとして、フラットな目線で的確なフィードバックをくれる仲間というのは、アイドルに限らずどんな労働環境においても必要な存在だと思います。

寺嶋:私は過去にアイドル活動と並行して、大学に通っていた時期がありました。アイドルという職業以外の友だちが周りに多いのもよかったと思います。信頼できる友だちに相談をすると、「それっておかしくない?」と指摘してくれるんです。「もしそれが、私の会社だったらクビだよ」とか。アイドルを特殊な業界として捉えないで、社会人の基準で指摘してもらえることが今の自分の視点を作ってくれました。それで気持ちも楽になりましたし、怖がらずに言えるようになったのかもしれないです。

アイドルを支える土台、事務所スタッフの労働環境改善も

──生々しい話なので答えられない場合は大丈夫ですが、アイドルは請求書や契約書を交わすのでしょうか。私はフリーランスのライターなので、仕事を始める前に契約書を交わしたり、事前に金額を教えてもらって仕事を受けるかどうか決めたりします。そういうものはアイドルにもありますか?

寺嶋:多くの場合は、事務所に所属するときに、契約書を書きます。そこで、ワンマンライブや物販、イベント出演などそれぞれの出演料に対して何パーセントをもらえるのか、事前に配分を決めることが多いです。ですけど、そういう数字を決めずになんとなくアイドル活動が始まってしまう人もいれば、契約書を交わしたのに約束と違う場合もあると聞きます。

 そういうのはもちろんよろしくないですけど……。ただ、もうひとつお伝えしたいのは、アイドルの労働環境に関する問題は、事務所のせいだけではない場合もあるんだと思います。アイドル事務所のスタッフさんは、長時間のハードな労働に耐えている方や、パワハラ・セクハラといった問題も耳にします。マネジメントというのは、仕事の幅が本当に広いんです。スケジューリングをして、企画をするだけじゃなくて、遠征があれば運転をして、会場で仕切って、また運転して帰ってくることもある。その中でお金をやりくりして、メンバーのメンタルもフォローするなんて、とてもじゃないけれど対応しきれない。時々、アイドルと関係性を築こうと志を高く持ってくださっているスタッフさんが、心が折れていく姿も目にして……。アイドルの労働環境を考えることは、その土台になるアイドル事務所の労働環境をきちんと考えることにもつながっているんだと思います。

──アイドルだけでなく、事務所の現場の方々のメンタルケアや労働環境の整備も必要ということですね。

寺嶋:そうですね。離職率が高いお仕事だと思うのですが、人が育っていかないのは事務所としても損ですし、アイドルとの信頼関係が築けません。ブラック企業体質は言語道断ですけど、スタッフの方々が長く、楽しく働ける職場になれば余裕が生まれて、自然とアイドル自身も楽しく働けるようになるのではないかと思います。

 アイドルと運営は対立構造のように見えてしまいがちですが、本当はそうじゃない。アイドル側の言葉を取り上げていただく機会は増えましたけど、スタッフさんの声を聞く機会があまりに少ないので、私ももっと気を配りたいです。

 

※インタビュー後編【寺嶋由芙が「アイドル戦国時代」「コロナ禍」を経て、今のアイドルさんたちに伝えたい言葉】に続きます

羽佐田瑶子(ライター)

ライター。主に映画、女性にまつわるインタビューやコラムをカルチャーメディアで執筆。『映画の中の女同士』、QJ webにて漫画エッセイを連載中。興味はジェンダーと岡崎京子と女性アイドルについて。

Twitter:@yoko_hasada

はさだようこ

最終更新:2022/12/07 15:47
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