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小栗旬の「答えなんかない」、テレビは「答えがほしい」 400日間の対話と攻防

小栗旬「小栗旬っていう役者は、たぶんこの数年で死ぬんだよ」

 3日の『プロフェッショナル 仕事の流儀』(NHK総合)は、俳優の小栗旬に密着していた。

 現在放送中の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で主人公の北条義時を演じている小栗。大河の撮影に入る前からの長期の密着は、彼の俳優としての不安、不安ゆえの努力、抱くようになってしまった諦念、けれど消えていない情念、先が見えないながらもこれまで歩いてきた道への矜持――というような、複雑にゆれ動く姿、ひとことで「これ」と言えない小栗旬の多面的な姿を、400日間密着したカメラが捉えていた。

 印象的なのは、喫煙所や酒席などで繰り返される小栗と密着スタッフとの対話だ。小栗いわく、自分がやっていることは「答えなんかない」と思っていることが多い。しかし、密着スタッフは「答えがほしい」と思っている。そんな両者の対話や衝突や歩み寄り。番組名に「仕事の流儀」を掲げる番組は、小栗に何かしらの“流儀”を語らせようとする。しかし小栗は、「流儀なんかひとつもねぇもんな」とつぶやいたりする。番組後半はそんなやり取りの記録になっていた。

 そんな衝突も含めた長い対話があったからだろうか。小栗からはこんなことも語られる。

「小栗旬が出てくれたからOK、小栗旬をそんなに傷つけずに作品を終わりましょうねっていう現場が増えてきたのも事実。そうすると、俺の居場所はないよ。そうすると、俺って死んだんだなって思う。小栗旬っていう役者は、たぶんこの数年で死ぬんだよ。だけどそんなことが、こういう場所でしか最近言えなくなった自分っていうのも悲しいし。(昔は)どこででも言ってきたし、だからこそ闘ってきたんだけど、でもこれをどんどん言えなくなってる自分が、やっぱり世の中に負けていってるんだっていうことを、ものすごくいまの俺は痛感してる」

 ラストシーン。いつものように番組スタッフは「プロフェッショナルとは」と問いかける。小栗は一度「ないよ」と即答したあと、ため息をついて天井を見上げ、「ここまで自分を連れてきてくれた人たちへの恩返し」といった内容を答える。その言葉に嘘はないのだろう。が、番組としての“オチ”をつけるための小栗の配慮もいくらかあったのではないか。

 そういう意味では、直前の密着スタッフとのやり取りが印象的だ。スタッフは「小栗さんはなんのプロフェッショナルなのかなって、ずっと取材してきて、己を削ってでも全力で他者に向けて幸せな嘘をつき続ける人なんじゃないかなと」と自分が密着の末にたどりついた小栗旬像を語る。それに対し、小栗は返す。

「そうだったらでも、いいよね」

 否定でもなく肯定でもなく。諦念のようでもあり希望のようでもあり。「答えなんかない」と思っている小栗と、「答えがほしい」と思っている密着スタッフの対話を追ってきた番組の答えは、この言葉だったように感じた。

飲用てれび(テレビウォッチャー)

関西在住のテレビウォッチャー。

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いんようてれび

最終更新:2023/02/27 19:13
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