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沖縄返還と犬養毅首相暗殺の「五・一五事件」

文=見附太郎(みつけ・たろう)

[入稿済]沖縄返還と犬養毅首相暗殺の「五・一五事件」の画像1
凶弾に倒れた犬養毅首相(国立国会図書館ホームページより)

 今年の5月15日は沖縄返還の50周年だ。

 1972年5月15日の午前0時を持って27年間に及んだ米国による沖縄統治は終わり、沖縄(琉球列島及び大東諸島)の施政権はアメリカから日本に返還された。

 2022年の今も、国土面積0.6%の島に米軍基地の約70%が集中する状況は変わらないが、政府は50周年の祝賀ムードを演出しようと懸命だ。

 東京・上野の東京国立博物館は5月3日から6月26日まで『沖縄復帰50年記念 特別展「琉球」』を開催、千代田区北の丸公園の「国立公文書館」では『沖縄復帰50周年記念特別展 公文書でたどる沖縄の日本復帰』が先月4月23日から6月19日までの予定で開催されている。今一つ視聴率が振るわないが、沖縄を舞台にしたNHKの連続テレビ小説『ちむどんどん』も、本土復帰前の沖縄が舞台であることを全面的に打ち出してきた。

 予定調和の範囲内だが、15日から16日にかけての新聞やテレビの報道も、沖縄の地元紙「琉球新報」と「沖縄タイムス」を除き、普天間を含む米軍基地の問題を指摘しつつも概ね、本土復帰50周年を祝う「祝賀ムード」の報道一色で彩られるだろう。

日本のファシズム、軍国主義化の幕開けとなった「五・一五事件」

 米軍基地という未解決の問題を抱えているとはいえ、沖縄返還の“五・一五”は当然祝う慶事だと筆者も日本国民の一人として思う。しかし、90年前の同じ5月15日に起きた「五・一五事件」(1932年)のことも決して忘れるべきでないだろう。結局、この事件を分岐点に、日本の政党政治は終わりを告げ、一気に軍国主義の道に突き進んでいく。

 事件から4年後の1936年には青年将校らが首相官邸、警視庁などを襲い、内大臣斎藤実、大蔵大臣高橋是清、陸軍教育総監渡辺錠太郎を殺害した「二・二六事件」が起き、やがて1941年12月、米英らを相手にした無謀な太平洋戦争に突入する。同戦争末期の1945年3月26日からは沖縄で住民を巻き込んだ日米両軍による熾烈な戦いとなった「沖縄戦」が始まり、日米双方合わせて20万人以上が死亡し、沖縄県民(県出身軍人・軍属と住民)の四人に一人が戦死した。この戦いが終わると、27年に及ぶ米軍による沖縄統治が始まった。

 その元凶ともなった「五・一五事件」。語り継がれる仔細は以下のとおりだ。

 1932年5月15日、午後5時30分ごろ、海軍中尉の三上卓(たかし)らの海軍の青年将校と陸軍士官学校の候補生の計9人が首相官邸を襲撃。犬養毅首相はいきり立つ青年将校らを客間に招き入れ、対話を試みようと「話せばわかる」と応じるも、青年将校らは「問答無用、撃て!」の号令のもと、一斉に銃弾を浴びせ犬養氏を殺害する。

 現職の首相を青年将校らが襲う。現在の価値観に合わせれば、許し難きテロ事件でしかないのだが、この90年前の「五・一五事件」では奇妙なことが起こった。

 事件発生から一年後の1933年5月17日、内務省は「五・一五事件」に関する報道管制を解き、事件の概要が明らかにされる。同年7月から陸海軍の軍法会議が始まるが、凶悪犯であるはずの襲撃した若手青年将校らに法廷で存分の弁明の機会が与えられた。

 ノンフィクション作家の保阪正康氏の『昭和の怪物 七つの謎』(講談社現代新書)によると、青年将校らは以下のような陳述を何十回も繰り返したという。

「自分たちは自分たちのことなどこれっぽっちも考えていない、考えているのはこの国のことだけ、陸海軍の指導者は、この国の改革(天皇親政)について考えて欲しい」」

 いつの間にか、首相暗殺を実行した凶悪犯でしかない青年将校らの行動は「名も命も求めず、日本改造の捨石になるための決起」という美談に話がすり替えられ、事件当初は暗殺された犬養毅首相に同情的だった世論は一気に青年将校らに同情的になり、全国から百万通を超える減刑嘆願書が法廷に届いたという。

 やがて、「(暗殺の)行為は悪いが動機は正しい」という奇妙な世論が形成され、現職の首相が暗殺されるという凶悪事件だったのにも関わらず、誰一人死刑になることなく、行った犯行に対する判決は軽いものになった。

 大衆に一気に広がった減刑及び助命嘆願運動の背景には第一次大戦後の恐慌から立ち直れず、相変わらず貧困に喘ぐ農村に対し何の対処策も打ち出せずにいた当時の汚職にまみれた政党政治の体たらくぶりに対する庶民の不満もあった。ただ、それはあくまで後世の歴史家の後付けに過ぎない。

 この「五・一五事件」を分岐点に曲がりなりにも存在した日本の政党政治は完全に、終わりを告げた。しかし、この事件には今も大いなる謎も残る。なぜ、現職の首相が殺されるという大事件だったのにも関わらず、一年以上にわたり報道管制が敷かれたのだろうか?また、なぜ暗殺の実行犯たる青年将校らには十分すぎるほどの弁明の機会が与えられたのだろうか? 彼らの陳述を聞き、法廷の様子を報じた新聞記者らも、彼らを“憂国の士”として必要以上に祭り上げていくが、その偏った報道ぶりは誰かに誘導されたのかという疑問が残る。

 あくまで仮説だが、「五・一五事件」、そして4年後の「二・二六事件」の両暴挙で黒幕となった荒木貞夫陸軍大将ら皇道派(天皇親政の下での国家改造『昭和維新』を目指す一派)が「五・一五事件」の詳細を一年以上伏せる間に自分たちに有利になるような世論作りをする準備を進め、政党を排除し軍部による政権樹立のための道筋をつけようとしたのではないだろうか。実行犯の青年将校らに法廷で十分過ぎる程の陳述の機会を与え、世間の同情を買うように仕向けたのも綿密に計算された演出だったとすれば合点がいく。

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