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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.688

実話をベースにした珠玉作『義足のボクサー』 世間の常識と闘う主人公が異郷で手にした自由とは

ボクシング映画の定石を外した秀逸なエンディング

実話をベースにした珠玉作『義足のボクサー』 世間の常識と闘う主人公が異郷で手にした自由とはの画像3
幼い頃から障害を持つ息子を、母親(南果歩)は女手ひとつで育て上げた

 ナオのトレーニングを見守っていたコーチのルディは、いつしかナオのことを「私の息子」と呼ぶようになる。ボクシングにのめり込むあまり、ルディの前妻と息子は彼を残して家を出ていってしまった。孤独さを抱える魂たちが、惹かれ合い、そしてぶつかっていく。鋼のように熱く鍛え上げられた魂は、やがてリングという神聖なる闘いの場で大輪の花を咲かせることになる。

 ボクシング映画の多くは大一番の試合がクライマックスを飾ることになるが、そんなボクシング映画の定石から本作はちょっと外れている。ジムで一緒に汗を流した若手選手の福岡でのタイトル戦に同行したナオは、その帰りに沖縄へ久々に帰郷する。「ただいま」と明るい表情で戻ってきた息子を、母親は優しく普段どおりに迎え入れる。

 自分の魂の在り方を闘いの中で実感することができた主人公が、日常生活へと静かに戻っていく姿が印象的だ。言葉のやりとりはないが、息子が無事に帰ってくることを祈っていた母親も、心の中で懸命に闘っていたことが伝わってくる。このラストシーンは、磨かれた刀が鞘に収まっていくような静謐な美しさを感じさせる。

 沖縄では「魂」のことを「マブイ」と呼ぶが、本作は主人公自身による魂込め(マブイグミ)の物語ではないだろうか。肉体と魂とが調和することで、主人公の日常は以前とは違い、満たされたものに変わっていく。母親もまた、彼女にとってのマブイ=息子が帰ってくることで、これまでの人生が肯定されたような喜びを手に入れる。

 ボクシングシーンの高揚感に頼らず、また押し付けがましい「感動ポルノ」にも陥っていない。『義足のボクサー』には、さまざまなボーダーを飛び越えていく爽快感がある。

 

『義足のボクサー GENSAN PUNCH』
監督・製作/ブリランテ・メンドーサ 脚本/ホニー・アリピオ
出演/尚玄、ロニー・ラザロ、ビューティー・ゴンザレス、南果歩、ジェフリー・ロウ、木佐貫まや、ジュン・ナイラ、ヴィンス・リロン、金子拓平
配給/彩プロ 5月27日(金)より沖縄先行公開 6月3日(金)よりTOHOシネマズ日比谷にて先行公開 6月10日(金)より全国公開
©2022『義足のボクサー GENSAN PUNCH』製作委員会
gisokuboxer.ayapro.ne.jp

最終更新:2022/05/26 19:00
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