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史実でも「八重」は特別な存在だった? 「八重」「比奈」と北条義時、源頼朝との関係

義時が正室に迎える「姫の前」は頼朝の“お気に入り”

史実でも「八重」は特別な存在だった? 「八重」「比奈」と北条義時、源頼朝との関係の画像2
堀田真由演じる比奈(ドラマ公式サイトより)

 もっとも、史実の頼朝は、正室・政子の実家である北条家の面々より、彼の乳母の家だった比企家の面々を重用する傾向がありました。ドラマの中でも、頼朝と比企家の関係がどんどん深まっていることに、りく(宮沢りえさん)が不満をあらわにするシーンがありましたよね。「近頃、比企殿ばかりをひいきされているように感じるのは私だけ?」「比企殿は万寿様(後の二代将軍・頼家となる頼朝と政子の男子)の乳母。蒲冠者殿(頼朝の弟・範頼)も比企の娘を嫁に取っています。どんどん源氏とのつながりが深くなってきているではありませんか!」というセリフにもあったように、北条家は比企家に出し抜かれてしまっていたのです。

 しかし、『鎌倉殿』では、金剛=泰時の母は八重で、頼朝にとって、彼女は訳あって別れざるをえなかっただけであり、その後も何かと気にかけるほどに特別な女性なのです。その彼女が、頼朝の信頼する北条義時に側室として嫁ぎ、男の子を生んだのであれば、頼朝がその子を嫡男として周囲に特別扱いするよう求めたり、応援したいと思う気持ちが生まれてもおかしくはないでしょう。

 第21回でも頼朝は、「金剛を見ていると、自分が幼かった頃と重なる」とあたかも自分の御落胤であるかのように義時の前で語り、「顔もよく見ればわしに似ておるぞ。万寿よりも似ておるのではないか」などと変な冗談を言っていましたよね。当時、貴人が自分のお気に入りだった女性を臣下に“下賜”するようなことはよくありましたが、それでもさすがに無神経すぎる発言だったなと思いました。政子に叱られたのも当然でしょう。

 また、ドラマの頼朝は、八重が水難に遭ったと聞けば、部下たちに総出で捜索させるよう命じ、自身も現場に向かうことを宣言して「決して死なせはしない! 決して!」などと叫んでいましたが、それも政子に複雑な思いを抱かせる行為でした。頼朝自身に悪気はないようでしたが、場をわきまえず、思ったことをなんでも口に出して周囲を困惑させる彼の困った性格がよりハッキリと描かれていましたね。ちなみに、そういう性格はどうやら娘の大姫にも遺伝しているようでした。ドラマの大姫(南沙良さん)はなにやらスピリチュアル方面に傾倒していましたが、頼朝譲りの空気を読まない性格のほうが危険なような気がします。

 頼朝のこうした振る舞いに対する政子のモヤモヤは、多かれ少なかれ今後も続くことになるのでしょうか。しかし、史実では、モヤモヤするどころか嫉妬を爆発させてしまうような事件がすでに起きていました。『鎌倉殿』には登場していませんが、義経が亡くなる3年も前に頼朝は別の女性との間に実子をもうけており、その母親が御所の女房だったという大進局(だいしんのつぼね)だったのです。かなり身分の高い女性である彼女は、文治2年(1186年)2月26日に男の子(実名不詳、出家した後の名を貞暁=じょうぎょう)を生んでいます。

 当然、政子は夫の再度の裏切りに激怒しました。彼女を恐れる臣下たちはもちろんのこと、頼朝も政子に何も言えないため、誕生の儀式さえ行うこともできず、母子はしばらく鎌倉で針のむしろのような日々を送った後、建久2年(1191年)1月以降、伊勢国に所領を与えるという形で大進局は追放されます。息子も、翌年5月には京都の仁和寺に入れられ、将来は出家させられることになりました。

 次回の放送では「征夷大将軍!!」と政子が嬉しそうに頼朝に呼びかけるシーンがあるようなので、『鎌倉殿』では政子が機嫌を大いに損ねたこの事件については描かれなさそうですが、正室・側室のパワーバランスを考える上で、興味深い逸話だと思われます。

 最後に八重亡き後、『鎌倉殿』の新ヒロインとなることが予想される比奈についても少しお話ししてみましょうか。

 比奈は史実では「姫の前」と主に呼ばれますが、現代の感覚では奇妙なこの名前は、御所での女房名でしょう。比企家の娘である姫の前は、『吾妻鏡』によると、鎌倉殿の御所に仕える女房で、「(頼朝の)御意に相叶う。容顔太(はなは)だ美麗」な女性でした。頼朝の“お気に入り”で、顔がとにかく美しかったそうですよ。

 義時は「権威無双」とされた姫の前にひとめぼれし、1年にもわたって恋文を送り届けていたのだそうです。義時は『吾妻鏡』などで見る限り、非常に寡黙で、悪く言えばムッツリだったので、ふたりの仲は頼朝が仲介しており、「決してあなたとは離縁したりしません」という起請文を義時に書かせ、その“婚前契約書”があって初めて姫の前との結婚は決まった……という逸話があります。

 建久3年(1192年)9月25日、義時と結婚した彼女は、その翌年に義時の次男・朝時を、さらに建久9年(1198年)には三男・重時を生んでいます。しかし先述のとおり、正室であるにもかかわらず、姫の前の生んだ子が義時の嫡男の候補になることはなく、そのために鬱屈したのか、次男の朝時などは深刻な女性問題を起こし、義時と折り合いが非常に悪くなったことで知られています。

 北条家は後に、姫の前の実家である比企家と全面戦争となるのですが、その時、義時と彼女はあっさり離縁しています。源義経は、鎌倉方と敵対した後も正室の郷御前(ドラマでは里)を彼女の(母方の)実家に戻すようなことがなかったことを考えると、史実の義時と姫の前は、あまり仲のよい夫婦ではなかったのではないか……と思われてなりません。次回以降のドラマで、比奈という新ヒロインはどう描かれていくのでしょうか。楽しみですね。

<過去記事はコチラ>

堀江宏樹(作家/歴史エッセイスト)

1977年、大阪府生まれ。作家・歴史エッセイスト。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。原案監修をつとめるマンガ『La maquilleuse(ラ・マキユーズ)~ヴェルサイユの化粧師~』が無料公開中(KADOKAWA)。ほかの著書に『偉人の年収』(イースト・プレス)、『本当は怖い江戸徳川史』(三笠書房)など。最新刊は『隠されていた不都合な世界史』(三笠書房)。

Twitter:@horiehiroki

ほりえひろき

最終更新:2023/02/21 12:33
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