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河瀬直美監督『東京2020オリンピック SIDE:A』上手いが危うい手法

「美しいものを見せ続ける」意図が窺い知れる

 おそらく、河瀬直美監督はこの映画をもって批判を黙らせるような意図はなく、「美しいものを見せ続ける」ことのみを主眼としているのだろう。それは、2021年5月の以下のツイートからも窺い知れる。

 「全部がコバルトブルーの海のように、美しく、清らかで…」「100年先の人々へ伝えたい想いがいっぱいです」という言葉は、多くの批判が集まる東京五輪に対してのものとは思えない、違和感ばかりを覚える内容だ。この「美しいもの(だけ)を伝えたい」という主張こそ、河瀬直美監督が目指していると思えば、アスリートの姿だけをひたすらに追う今回の『SIDE:A』の内容にも納得がいく、というのも皮肉的だ。

真価が問われるのは『SIDE:B』だが……

 とはいえ、この『SIDE:A』の撮影や編集など映像面でのクオリティは高く、十分にスクリーンで観届ける価値はあるとは思う。藤井風のメインテーマのメロディと歌声もとても綺麗だ。何より、前述した通り劇中に登場するアスリートを応援していた方であれば、より大きな感動があるだろう。

 ただ、個人的には2時間の時間をかけて集中して観る映画としては、もう少しだけでもエンターテインメントとして楽しませる工夫が欲しかったし、複雑な問題が交錯する東京五輪という題材を扱っていながら、この1本だけではフェアとは言えない内容になっていたのは残念だ。もちろん、作品としての真価は『SIDE:B』と合わせて論じられるべきなのだろうが……最後に映し出された『SIDE:B』の予告編で「素晴らしい五輪を」という言葉が繰り返されていたので、正直に言って悪い予感ばかりがする。

 そもそも、開催から1年近くが経ち、あれだけの批判を受けた東京五輪の“公式”映画であり、プロパガンダだと公言していると言っても過言ではない本作を、今になってどれだけの人が観たいと思うのだろうという、そもそもの疑問がある。東京五輪のさまざまな問題に憤りを覚えた方、またドキュメンタリー作品を好む映画ファンが観たいのは、その逆の欺瞞を暴いたり、反権力を訴える映画だろう。

 ちなみに、この『SIDE:A』の公開日と同日に、五輪ファーストの陰で繰り返される排除の歴史を描く『東京オリンピック2017 都営霞ヶ丘アパート』の再上映がミニシアターのシモキタ – エキマエ – シネマ『K2』で行われている。こちらを観たほうがいい、と思う方も多いのかもしれない。

ヒナタカ(映画ライター)

「ねとらぼ」「cinemas PLUS」「女子SPA!」「All About」などで執筆中の雑食系映画ライター。オールタイムベスト映画は『アイの歌声を聴かせて』。

Twitter:@HinatakaJeF

ひなたか

最終更新:2022/06/07 07:00
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