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『マイスモールランド』入管問題を『誰も知らない』のように描く理由

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 5月6日より『マイスモールランド』が公開されている。本作は日本の入管・難民問題を描きつつ、是枝裕和監督作『誰も知らない』(2004)を強く連想させる、万人に開かれた優れたドラマ映画となっていた。その理由を解説していこう。

じわじわと困窮に追い込まれる

 あらすじはこうだ。幼い頃から日本で育った17歳のクルド人の高校生のサーリャの日常は、家族の難民申請が不認定となったことから変わっていく。在留資格を失い「仮放免」という状態になったため、許可なしでは居住区の埼玉県から出られなくなってしまう。同じ頃、サーリャは東京の高校に通う少年・聡太と出会い交流を深めていくが、さらなる問題が家族を襲い……。

 最大の特徴は、困窮に追い込まれる生活が容赦なく描かれていることだろう。初めこそ、問題は埼玉県から出られないことで、中学2年生の妹が「原宿に行けないからオワタ」とボヤく程度。家族みんなでラーメンを食べに行って笑い合うなど、平和でささやかな日常が綴られている。

 だが、その後の在留資格の喪失は、経済的にも精神的にも、幸せだった家族を容赦無く苦しめることになる。就労を禁じられ、父親は施設に収容され、じわじわと八方塞がりな状況に追い詰められてしまう様は、観ていてとても辛い。まずは、貧困の状況をリアルに見せていくことが、見た目にもわかりやすい『誰も知らない』との大きな共通点と言えるだろう。

生活や文化をもった人間を描く

 劇中では、主人公のことを想ってくれる少年はいるし、他にも家族へ親身に接してくれる人はいる。劇中では悪人と呼べる人はほとんどいないのに、なぜ彼女たちがこんなに苦しまなければならないのかと、「理不尽さ」に憤りを覚える内容となっている。

 その理不尽さがあってこそ、社会問題をただ知るだけでなく、「当事者目線で考えられる」ことが『マイスモールランド』の最大の意義と言っていい。それは演出の工夫や俳優の演技で感情を伝える、劇映画だからこそ可能なものであるし、それもまた『誰も知らない』との共通点だ。

 本作を手がけた川和田恵真監督は、その『誰も知らない』の是枝監督が率いる映像制作者集団「分福」に在籍する新鋭。川和田監督によると、ドキュメンタリー作品ではなく劇映画にした理由は、取材で出会ったクルド人から「社会問題としてだけじゃなく、それぞれ生活や文化、物語をもった人間として見てほしい」と言われたことが大きかったという。

 その上で「遠くにある問題ではなく、物語の中に入って、自分のことのように理解しながら観てもらえるものを作りたい」「誰もが通過してきた学生時代の物語にすることで、より他人 事ではないように、自分の感情を見つけてもらいたい」という思いで、ひとりの少女のアイデンティティをめぐる物語を作ろうと、川和田監督は心がけたのだそうだ。

 社会問題を描く作品であると同時に、ごく普通の少女がアイデンティティに悩む青春物語であり、だからこそ「生活や文化、物語をもった人間として見てほしい」という期待に応えている、極めて誠実に作られている映画でもあるのだ。

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