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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.692

岸井ゆきのを「ゲスかわ女優」と呼びたくなるムロツヨシとの共演作『神は見返りを求める』

文=長野辰次(ながの・たつじ)

岸井ゆきのを「ゲスかわ女優」と呼びたくなるムロツヨシとの共演作『神は見返りを求める』の画像1
“恩を仇で返す女”を岸井ゆきのが魅力的に演じる『神は見返りを求める』

 こんなにも「ゲスかわいい」と思える女優には、そうそうお目には掛かれないだろう。吉田恵輔監督のオリジナル脚本作『神は見返りを求める』で底辺YouTuber・ゆりちゃんを演じる岸井ゆきのは、女の持つゲスな一面をたっぷりと見せてくれる。それでいて、そんな彼女のゲスさに、スクリーンを観ている観客は堪らなく魅了されてしまう。岸井ゆきののことを「世界一のゲスかわ女優」と呼びたい。まぁ、呼ばれても本人は迷惑だろうが。

 ゲスさは言い換えれば、人間臭さでもある。本来は平凡で不器用な女の子・ゆりちゃんを増長させ、ゲスさをぐいぐい引き出すことになってしまう主人公・田母神を演じるのはムロツヨシ。吉田恵輔作品への出演は、犯罪映画『ヒメアノ~ル』(16)以来となる。ムロツヨシもまた、人間のゲスな部分をごく自然に演じられる稀少俳優だ。

 独身の男女ふたりが、YouTubeのコンテンツづくりに悪戦苦闘しながら、心の距離を近づけていく。どちらも独身かつ恋人もいないので、普通なら恋愛関係に発展するところだろう。だが、そこは吉田恵輔作品ゆえに、ありがちなパターンには陥らず、予想外の展開が待っている。観客は笑いながらも、意外な物語の果てに新しい男女の関係性を目撃することになる。

 この物語は、田母神尚樹(ムロツヨシ)の回想として始まる。河合優里(岸井ゆきの)はコールセンターでオペレーターをしながら、YouTuber・ゆりちゃんとして活動していた。不器用で、センスもないため、ゆりちゃんのコンテンツはどれも痛々しい。再生回数も当然のように伸びない。そんなとき、ゆりちゃんは「神」と出会う。ゆりちゃんが「神さまだ」と崇めるのが、イベント会社に勤める田母神だった。

 合コンで酔い潰れたゆりちゃんを介抱したことがきっかけで、田母神はゆりちゃんの相談に乗るようになる。男性の多くは、 若い女性からの「相談したいことがあるんですが……」という言葉にドキドキするのではないだろうか。以来、休日はゆりちゃんのYouTubeの撮影や編集を手伝うようにな る田母神だった。ゆりちゃんが田母神の人の良さを利用しているのか、田母神が手伝いにかこつけて懇意になろうとしているのか、そこはお互いさまである。

 車を出して、撮影用の着ぐるみなども手配する田母神だったが、相変わらず再生回数は伸びることはなかった。それでも2人っきりで行なうファミレスでの打ち合わせや反省会は楽しかった。いつまでも、こんな日々が続けばいいのに。田母神は遅い青春を堪能していた。(1/3 P2はこちら

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