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ツイッターでバズっても良い歌とは限らない 岡本真帆『水上バス浅草行き』ヒットと短歌ブームの裏側

「ツイッターがうまいだけ?」コロナ禍のスランプ

――岡本さんはツイッターで発信するようになった理由として「反応がすぐ欲しかった」とおっしゃっていましたよね。

岡本 そうですね。新聞歌壇は投稿して1カ月くらいしないと載るかどうかもわからないし、載っても言及してくれる人がなかなかいない。どうせ作るのだったら、反応してもらえる場所に載せたいなという気持ちがありました。作った短歌が人にどう受け取られるかや、どのような反応があるかを常に観測しながら創作していて、「この歌は意味がちゃんと伝わるかな?」と実験するようにアップして、リアクションがいまいちだったら作りを変えてみようと取り下げたり。しれっと消すこともやっています(笑)。

――新聞や雑誌で採用の可否を判断するのは普通は歌人で、そこでは技術の巧拙や短歌の歴史を踏まえて評価される一方、SNSでは短歌をやっていない人が感覚で好き嫌いを言うという評価軸の違いがありますよね。

岡本 私は歌壇の中で評価されたいかというと、そこにこだわる気持ちはそれほどないんですね。歌壇以外の人でも、誰かに私の作ったものが伝わってその人が感動してくれたり、「日常の中でふと思い出します」と言ってもらえたりすること自体がうれしいです。だから独りよがりにならないように、人に伝わるものを作ろうと意識しています。

――ナナロク社さんは岡本さんの短歌のどういうところに魅力を感じて本を出そうと思ったのでしょうか?

村井 岡本さんには「歌集を出そう」と話をした20年時点で、SNS上で人気のある短歌がありましたが、最初から「いける」と思っていたというよりは、作品をいただきながら「これは良い作品集ができるぞ」と確信を深めていったところがあります。岡本さんの歌には強い陽の部分があった。単純に明るいわけではなく、根底に「明るくいてやるぞ」という気概を感じたんですね。

――僕は『水上バス』の中では「迷い込む袋小路の団地から見える夕日に許されている」や「まだ明るい時間に浸かる銭湯の光の入る高窓が好き」といった歌が好きですが、村井さんのおっしゃることはよくわかります。

岡本 ただ、歌集の制作を始めたのが20年5月頃で、そこから「21年度内の刊行を目指す」と決まったものの最初はスランプ状態でした。傘の歌がバズって以来、実は短歌をそんなに作っていなくて。「どういう歌が私らしいんだろう?」と考えすぎて、うまくやれない時期が21年の2月くらいまで続きました。

 傘の歌がバズったことに関して、「ツイッターでいくらいいねがついたりリツイートされたりしても、それがイコール歌の良さとは限らない」と思っていたんですね。言ってしまえば、SNSにはバズらせるテクニックというものがありますし、投稿したツイートが伸びるかどうかはその人が誰にフォローされているかも関係します。運も含めた、そういった複数の要素があって、拡散されるかどうかが決まる。だから傘の短歌が多くの人に観てもらえても、「私は短歌そのものではなくツイッターがうまいんじゃないか?」と長期間悩んでいて……天狗になってもいけないし、でもその歌が好きだと言っている方の声も届くし、そういう中でどういう歌を作れるかを模索していました。

――ちょうど折しもコロナ禍ですよね。

岡本 仕事もそれまで出社していたのがフルリモートに切り替わり、一人暮らしだったからほとんど誰にも会わなくなりました。それまでは通勤電車や旅行中など、移動しているときに自分の感覚の変化に気づいて短歌を作るケースが多かったのが、移動がなくなって創作もしんどくなって……。

 それをどう乗り越えたかというと、仲のいい友だちや同僚と感染状況を見ながら会ったり話したりする中で救われてきました。「水上の乗り物からは手を振っていい気がしちゃうのはなぜだろう」などを含む連作「水上バス浅草行き」は、20年末に友達と実際に水上バスに乗ったときの想い出を書いたものです。明るい場所に連れ出してくれた記憶を再確認して、大事にしたいなと。

 それに加えて、歌人の上坂あゆ美さんとClubhouseやツイッターのスペースで「生きるための短歌部屋」という、お互いお題を出し合って作った短歌を評し合う、視聴者参加型の企画を始めたんですね。そこで「完璧なものを出そう」というスタンスじゃなくて「いっぱい作って、その中から磨いていけばいいんだ」と気づくことができて、それから調子が上がってきました。ツイッターでよく見ていただいている「平日の明るいうちからビール飲む ごらんよビールこれが夏だよ」や先ほどの銭湯の歌もその頃にできたものです。

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